「あなた好み」ならバーチャルでもかまわない!?
 ~絶対に譲れない「恋人の条件」とは?~

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©Photo courtesy of Warner Bros. Pictures
 

監督: スパイク・ジョーンズ
配給: アスミック・エース
封切: 6月28日(土) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
公式サイト: http://her.asmik-ace.co.jp/

ストーリー●
遠くない未来。LAで独り暮らしをするセオドアは「代書屋」を生業としている。
恋愛には臆病だ。幸せな結婚をしたはずなのに、妻とは別居・離婚協議中。
なぜ自分が嫌われるのかわからず、現実を受け止めきれない。
ある日セオドアは音声秘書サービスソフトを購入し、
自分のPCにインストールした。
女性の声を選択、「サマンサ」と名乗るその「声」は、
PC内の膨大なデータ蓄積からセオドアの人となりを理解し、
かゆいところに手が届く細やかさで彼の日常を完璧にサポート。
ちょっとした心の揺れにも気づき、人生相談にものってくれる。
そんなサマンサに、
セオドアは次第に「秘書」以上の感情を抱くようになる。
そしてサマンサもまた・・・。

解説と見どころ●
実体は「声」だけというバーチャルなサマンサ。
でも
目を閉じて「声」と話をすれば、
リアルな恋人と電話をしているのとどこが違うというのだ?

存在するのは「心通じ合う、僕とサマンサ」。
向こう側の相手が人間でも機械でも、
チャットでは自分の目の前には入力された文字が次々と並ぶだけ。
文字を交換しながらときめき、満たされていくのは同じだ。

そしてこの胸の高鳴りは、
たしかに自分の身体の中で起こっていることなのだから、
もう「バーチャル」とは言わせない!

気持ちが通じ合い、お互いを必要としているのなら、
たとえ相手が「機械」であっても、
そこに「愛」は確かにあるのではないか?

この映画を通じて私たちは
「恋愛とは何ぞや?」を哲学する。
「恋したら、私たちは相手に何を求めるのか」
「相手は私に何を求めてくるのか」
「絶対に譲れないものは何か」
恋愛の本質を突き詰めていけば、
おのずと自分の「価値観」が見えてくるはずだ。

「恋愛」といえば「男と女」それも同じ階級や民族の中で、
・・・と決まっていた社会はすでに遠い。
人種も階級も、民族も国境も性別も超え、人類は恋を成就してきた。
ときに「人類と宇宙人」であっても。
いわんや、「人類と機械」をや。

セオドアは、サマンサと「価値観」を共有できるだろうか。
やさしく、楽しく、やがてせつない哲学だ。

キーワードはさしずめ「文化の違い」。
自分の「当たり前」と相手の「当たり前」が異なることを知って
大いなる「カンチガイ」にはたと気づかされるのは
相手が機械であっても人間であっても同じだと思った。


セオドアの「代書屋」という職業にも注目したい。
彼はクライアントの要求に従い、
彼らの家族の誕生日や記念日にメッセージを「代書」する。
本来「親と子」「夫と妻」など1対1の関係である領域に踏み込みながら
何の疑問もはさまず他人になりすまして「親書」を書き続けるセオドアの行動が
この物語の大きな伏線になっている。