仲野マリの気ままにシネマナビ online

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2014年06月

音楽の革命児パガニーニは「ロック・スター」だった!
 
本物のヴァイオリニストがセクシーパワフルに熱演
 
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Ⓒ 2013 Summerstorm Entertainment / Dor Film / Construction Film /
  Bayerischer Rundfunk / Arte. All rights reserved

 

監督・脚本:バーナード・ローズ
主演・製作総指揮・音楽:デイヴィッド・ギャレット
配給:アルバトロス・フィルム/クロックワークス
封切: 7月11日(金)より TOHOシネマズ シャンテ、
    Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー!
公式サイト: http://paganini-movie.com/

ストーリー●
超絶技巧を有しながら、オペラの前座に甘んじていた
一介のヴァイオリニスト・パガニーニ。
プライドは高く、酒と女で身を持ち崩す彼(デイヴィッド・ギャレット)の前に、
ウルバーニと名乗る男(ジャレッド・ハリス)が現れる。
彼はパガニーニの天才を見抜き、世紀のヴァイオリニストにすると宣言する。
「愛人を殺して監獄に」「悪魔に魂を売り渡した」など
ウルバーニがセンセーショナルな「パガニーニ伝説」を
振り撒き始めると、
その評判はヨーロッパ中に轟きはじめる。
満を持してのミラノ公演。
聴衆の期待が頂点に達したところで鳴り響いたヴァイオリンの音色は
一夜にしてパガニーニに富と名声を与えた。
とはいえ、酒癖・女癖・ギャンブル癖は直らない。
詐欺まがいのマッチポンプな興業を続け、酒池肉林な毎日。
しかしあるとき、彼は自分の心の琴線に触れる清らかな歌声に出会う。

解説と見どころ●
多くの作曲家がインスパイアされたパガニーニの音楽。
この曲も、あの曲も「あ、知ってる!」と叫びそうになる。

パガニーニの音楽がいかに人の心を動かすものか、
私たちはまるでタイムスリップしたかのように体験することになる。

今でこそその名を「クラシック音楽」と言うが、当時は「現代」音楽。
次々と新曲を生み出し、ショパンもリストもモーツァルトも、
みな「作曲家」かつ「自分の曲の演奏者」であった。
そして劇場に足を運んだ観客たちは、
新曲の一音を聞いただけで「キャー!」と叫ぶ。
ビートルズやローリング・ストーンズのコンサートと同じだ。
「今までにない」音楽は、人々を陶酔させるのである。


彼らと同じ感覚を味わえるのは、
とにもかくにもデイヴィッド・ギャレットのおかげ!
超絶技巧の本家本元パガニーニを、
現代の本物ヴァイオリニストが弾いてくれるのだ。
それも、超カッコいい、セクシーなイケメンが!
デイヴィッド・ギャレットは一流のヴァイオリニストであるにとどまらず、
俳優としてもしっかりと主演をこなし見ごたえ十分だ。

もちろん、彼が音楽監督を務めているので、音の造り方に妥協がない。
技巧的な部分だけがもてはやされがちだが、
哀愁漂うバラッドの音色の豊かさに改めて目を開かされる。

ウルバーニが仕掛ける「宣伝」も非常に現代的。
売り出すには「戦略」が必要、という
「佐村河内守事件」に象徴されるような部分もある。
どんなに音楽が本物であっても、
「ストーリー」がなければ人は食いつかなかったし、
開演時間になっても現れずしびれを切らしたころに颯爽と登場するなど、
計算しつくした演出もまた、彼の名声をさらに広げたことだろう。

この世でもっともスキャンダラスな音楽家と言われるパガニーニ。
これまで様々な映画が作られてきたが、
どちらかというと「スキャンダラス」な方向にテーマが流れがちだった。
今回はそのミステリアスな部分をフィクションとして織り込みながら、
史実をうまくつなげてパガニーニの音楽的側面を浮かび上がらせている。
同じヴァイオリニストとして、音楽家として、
ギャレットの先達へのリスペクトが、そこにある。

 「あなた好み」ならバーチャルでもかまわない!?
 ~絶対に譲れない「恋人の条件」とは?~

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©Photo courtesy of Warner Bros. Pictures
 

監督: スパイク・ジョーンズ
配給: アスミック・エース
封切: 6月28日(土) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
公式サイト: http://her.asmik-ace.co.jp/

ストーリー●
遠くない未来。LAで独り暮らしをするセオドアは「代書屋」を生業としている。
恋愛には臆病だ。幸せな結婚をしたはずなのに、妻とは別居・離婚協議中。
なぜ自分が嫌われるのかわからず、現実を受け止めきれない。
ある日セオドアは音声秘書サービスソフトを購入し、
自分のPCにインストールした。
女性の声を選択、「サマンサ」と名乗るその「声」は、
PC内の膨大なデータ蓄積からセオドアの人となりを理解し、
かゆいところに手が届く細やかさで彼の日常を完璧にサポート。
ちょっとした心の揺れにも気づき、人生相談にものってくれる。
そんなサマンサに、
セオドアは次第に「秘書」以上の感情を抱くようになる。
そしてサマンサもまた・・・。

解説と見どころ●
実体は「声」だけというバーチャルなサマンサ。
でも
目を閉じて「声」と話をすれば、
リアルな恋人と電話をしているのとどこが違うというのだ?

存在するのは「心通じ合う、僕とサマンサ」。
向こう側の相手が人間でも機械でも、
チャットでは自分の目の前には入力された文字が次々と並ぶだけ。
文字を交換しながらときめき、満たされていくのは同じだ。

そしてこの胸の高鳴りは、
たしかに自分の身体の中で起こっていることなのだから、
もう「バーチャル」とは言わせない!

気持ちが通じ合い、お互いを必要としているのなら、
たとえ相手が「機械」であっても、
そこに「愛」は確かにあるのではないか?

この映画を通じて私たちは
「恋愛とは何ぞや?」を哲学する。
「恋したら、私たちは相手に何を求めるのか」
「相手は私に何を求めてくるのか」
「絶対に譲れないものは何か」
恋愛の本質を突き詰めていけば、
おのずと自分の「価値観」が見えてくるはずだ。

「恋愛」といえば「男と女」それも同じ階級や民族の中で、
・・・と決まっていた社会はすでに遠い。
人種も階級も、民族も国境も性別も超え、人類は恋を成就してきた。
ときに「人類と宇宙人」であっても。
いわんや、「人類と機械」をや。

セオドアは、サマンサと「価値観」を共有できるだろうか。
やさしく、楽しく、やがてせつない哲学だ。

キーワードはさしずめ「文化の違い」。
自分の「当たり前」と相手の「当たり前」が異なることを知って
大いなる「カンチガイ」にはたと気づかされるのは
相手が機械であっても人間であっても同じだと思った。


セオドアの「代書屋」という職業にも注目したい。
彼はクライアントの要求に従い、
彼らの家族の誕生日や記念日にメッセージを「代書」する。
本来「親と子」「夫と妻」など1対1の関係である領域に踏み込みながら
何の疑問もはさまず他人になりすまして「親書」を書き続けるセオドアの行動が
この物語の大きな伏線になっている。

無理難題でも「やってやろうじゃないの!」
弱小藩士が幕府に挑む青春群像劇


超高速メイン

©2014「超高速!参勤交代」製作委員会

 
監督: 本木克英
配給: 松竹
封切: 6月21日(土) 全国ロードショー

公式サイト: http://www.cho-sankin.jp/

ストーリー●
江戸時代、各藩に金も時間も使わせて、
幕府に対抗させる力を蓄えさせないしくみでもある壮大な制度・参勤交代。
湯長谷藩の一行も、1年の江戸への参勤を終え、ようやく故郷に帰ってきた。
ところがゆっくりするのもつかの間、幕府から再び「参勤せよ」との指令が!
それも金山の届出に不審あり、との呼び出し理由で、
「今日より5日以内に」というありえないタイトなスケジュール。

従わなければ藩のお取り潰しは確定だ。
気弱な藩主内藤政醇(佐々木蔵之介)は頭を抱えるが、
家老相馬兼嗣(西村雅彦)らとともに必死で江戸を目指す。
しかし道中には彼らをの行く手を阻む者たちが!
この、どう考えても不可能な「参勤命令」の裏には、
幕府老中信祝(陣内孝則)の黒い企みが潜んでいた。

解説と見どころ●
「窮地を脱するため、
知恵と勇気と絆で大きな権力に対抗する仲間たち」。
先だってヒットした「のぼうの城」をほうふつとさせる、爽快時代劇だ。
笑いあり活劇ありでテンポよく、
ちょっと見はドタバタ喜劇のように見えて、
冒頭の何気ないやりとりがクライマックスで重要になるなど、
伏線もきちんと貼られていて破綻がない。

また、絶対権力に蹂躙される庶民の気持ちも描かれており、
登場人物一人ひとりの生き方に共感できる。
「時代劇のカッコよさを残しながら、現代に通じる新しさを求めた」
という本木克英監督の志が、キャスト・スタッフに浸透した結果だろう。

弱小藩側の藩士の中では、
無謀な江戸行きに反対しながらも全力を尽くす秋山役の上地雄輔がいい。
徳川吉宗役には、佐々木蔵之介をスーパー歌舞伎に誘った歌舞伎俳優・市川猿之助。
さすがの貫禄である。

「タイムリミットに向かってゴールに向かう」という
汗臭い男たちのサバイバル・ロード・ムービーに
華を添えるのは紅一点の深田恭子(お咲)。
彼女との出会いが、藩主・政醇をいかに成長させるのか、
そこもまた楽しみな見どころだ。

サブ2
©2014「超高速!参勤交代」製作委員会
サブ1
©2014「超高速!参勤交代」製作委員会

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