仲野マリの気ままにシネマナビ online

投稿誌「Wife」に連載中の「仲野マリの気ままにシネマナビ」がWebの世界に飛び出しました!

2014年08月

すべてのヒーロー大好き人間に贈る
スーツアクターの夢と現実

メインスチール「イン・ザ・ヒーロー」
©2014 Team REAL HERO 

 

監督:武 正晴
脚本:水野敬也 李 鳳宇
配給: 東映
封切: 9月6日(土)ロードショー

公式サイト: http://in-the-hero.com

ストーリー●
正義を愛し、ブルース・リーを崇拝する本城渉(唐沢寿明)は
『下落合ヒーローアクションクラブ』の社長兼スーツアクター。
この道25年の大ベテラン、といえば聞こえはいいが、
「いつかは顔の出る主役に」との思いはなかなか実現しない。
ようやく「顔を出す」悪のボス役がまわってきても、
若手新人俳優の
一ノ瀬リョウ(福士蒼汰)に取られてしまう。

リョウがこの役を受けたのは、
「ベテランスーツアクターの渉に殺陣を学ばせたい」
という
マネージャー(小出恵介)の思いからであり、
リョウ自身は子ども向けのヒーロー映画などには興味がなかった。
ハリウッド映画『ラスト・ブレイド』への出演を目指しており、
オーディションのことで頭がいっぱいなのだ。

その忍者もののアクション映画『ラスト・ブレイド』から、
なんと渉に白羽の矢が!
クライマックスで繰り広げられる
ノーワイヤー、ノーCGで臨む決死の長回しシーンを

ぜひ日本の「真のアクション俳優」に、というラブコールである。
ついにやって来たこの瞬間に、渉は狂喜乱舞!
しかしその役は、
決まっていた大物俳優が危険を感じて降板した役だった。

「伝説のスーツアクター」もすでに42歳。
満身創痍で首に爆弾疾患を抱えていることを知る
元妻の凛子(和久井映見)は、心配でたまらない。


果たして渉は命を懸けて、
この一世一代のチャンスをモノにできるのだろうか?


解説と見どころ●
「スーツアクター」が夢みるのは、顔を出して演じる「アクション俳優」。
最近は、戦隊もののドラマ出身の人気俳優が増えているが、
彼らは主役として「顔を出して」演じている。
唐沢寿明は、
スーツアクター経験者から日本のトップ俳優に上り詰めた
数少ない例の一人かもしれない。

そんな唐沢だからこそ、
スーツアクターたちの日々の訓練や情熱に
リアリティがある。
アクションにもキレがあり、映画が締まる。
(下の写真の、唐沢の足の線の美しさに注目!)

「太秦ライムライト」にも出演していた松方弘樹が
ここでも顔を出すサプライズ!
やはりラストに凄まじい殺陣を見せてくれるのがうれしい。

そして、
「ものづくり」の質や精神性にこだわる
その真髄こそが、描かれている映画なのだ。

映画に関わるすべての人たちが映画を愛し、
自分たちの仕事に誇りを持って取り組んでいる。
そのことの清々しさ。
子どもたちに夢を与えるために自分ができる
最高のことをしようとしている人々に、
乾杯したい気分になる。

「蒲田行進曲」のオマージュがあちこちに。
それを見つけるのもまた、映画ファンには楽しい。

サブスチール19「イン・ザ・ヒーロー」
©2014 Team REAL HERO 
サブスチール1「イン・ザ・ヒーロー」
©2014 Team REAL HERO 
サブスチール2「イン・ザ・ヒーロー」
©2014 Team REAL HERO 

すべては視聴率アップや昇進のため?
テロリストからの電話オールライブの舞台裏

1テロ、ライブ

©2013 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
 

監督・脚本: キム・ビョンウ
配給: ミッドシップ/ツイン
封切: 8月30日、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次公開
公式サイト: terror-live.com

ストーリー●
国民的アナウンサーとして人気の高かったヨンファ(ハ・ジョンウ)は、
不祥事からニュースキャスターを降板、
系列のラジオ局に更迭されていた。
朝の生放送情報番組を担当しているものの、
気は乗らず、話し方も投げやりに。

そこにリスナーから1本の電話が。
ヨンファを指名して「大統領を呼べ、呼ばないと橋を爆破する」と脅迫する。
いたずらかと一笑に付した爆破予告が数十秒後に現実とになったとき、
ヨンファは「しめた!」とこぶしを握った。

「テロリストとの電話をテレビで独占生中継だ!
 番組の視聴率はうなぎのぼり。
 テレビ局に恩を売って、 俺はキャスターに返り咲く。
 そしてテロリストを説得、事件を終わらせ、
 俺は政府からも感謝される!」

独占放送を手柄にしたいチャ報道局長(イ・ギョンヨン)の協力で、
ヨンファのもくろみ通り、
ラジオブースにはテレビカメラが運び込まれ、
政府からネゴシエーター(チョン・ヘジン)が派遣される。

電話口のテロリストは、執拗にヨンファに要求を迫る。
政府もまた、ヨンファに細かく指示をしてくる。
ヨンファは両者に冷静さを求めるが、
テロリストは要求をじらされ激昂、
「筋書」はもろくも崩れ、
ついに漢江にかかる橋の中央で
2度目の爆破が起こってしまう。

そこにはレポーターとして
ヨンファの妻も駆けつけていた。


解説と見どころ●
生ぬるい空気の中、いつもと同じように始まる放送。
ところが一転して緊迫した空気に!
そこから始まる2時間の「テロ事件」の顛末を、
私たち観客も、まるで本当に「生中継」を見るように、
リアルタイムの2時間で経験する。

スピード&スリル満点な中に描かれるのは
「テロ」を生む背景だ。
国家やマスメディアなど、権力側の傲慢や、
無視され、虐げられ、叫び、抗う民衆の怒りがストレートに噴出、
思わずテロリストに感情移入してしまう。

ただ
この作品が善か悪かの単純な二者択一に終わらないのは、
ヨンファという一人の人間をフィルターとしているからだろう。

「国民的アナウンサー」という地位を得たヨンファが
得たものは人気と財力。
ではその代償として、
彼に求められていたものは何だったのか?

そのことに、最後に気づくヨンファの心の中に
この映画の核心がある。

「ありのままに」生き、
「現実」や「欲望」を肯定することが主流となりつつある現代。
そんな時代に「使命」を得て、
「理想」の世の中をつくることの難しさと大切さを
考えさせる問題作だ。

ラジオの放送室という閉鎖された空間でのやりとりが主だが、
同時に「テレビ中継」というシチュエーションで映像をうまく使っており、
映像によって取り込まれたブースの外の世界が
空間に広がりを与えている。


テロ、ライブ2
©2013 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.


誰もが口ずさめるCMソングが、
チリの恐怖政治を終わらせる原動力に
NOメイン

©2012  Participant Media No Holdings,LLC.

 

監督: パブロ・ラライン
脚本:ペドロ・ペイラノ
オリジナル戯曲:アントニオ・スカルメタ「国民投票」
配給・宣伝:マジックアワー
封切: 8月30日(土)より[東京]ヒューマントラストシネマ有楽町、
[大阪]テアトル梅田、[神戸]シネ・リーブル神戸  ほか全国順次ロードショー
公式サイト: www.magichour.co.jp/no/ 

2012/チリ・アメリカ・メキシコ/スペイン語/
カラー/スタンダード/5.1ch/118分
日本語字幕:太田直子
スペイン語監修:矢島千恵子
後援:チリ大使館 

出演:ガエル・ガルシア・ベルナル
   アルフレド・カストロ、アントニア・セヘルス、ルイス・ニェッコ
 
ストーリー●
レネ(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、
テレビCMを手掛ける広告マン。
コーラのCMなど、大衆受けする映像を得意とするレネに、
思わぬ依頼が。
軍事政権下のチリで行われる国民投票の、
野党連合側キャンペーン番組だ。
父の旧知からの申し入れに、
彼は上司の目を気にしながらも協力を約束する。
視聴者の嗜好や心理把握に長けたレネが繰り出した
明るく軽妙な「政治CM」は、
これまでの堅苦しい野党の殻を破り、
多くの賛同者を得始める。
が、それと同時に、
敢えて政治と距離をおいてきたレネとその家族の周りには
恐ろしい影がつきまとい始めるのだった。

解説と見どころ●
1988年チリ、ピノチェト政権の下で
実際に起こった話に基づく映画である。
軍政に反対する若者たち次々と姿を消し、
密かに処刑されていった恐怖政治が世界的にも問題となり、
国民投票を余儀無くされたピノチェト。
圧倒的に不利な条件でのキャンペーンしか許されない野党連合に
当初勝ち目はないと誰もが思ったのに、
なぜ劇的な、それも無血の政権交代は成功したのか。

大衆は、どんなに現実に絶望していても、
単に正論を振りかざし、反対のための反対を繰り返すだけでは動かない。
彼らの心の中の勇気に火をつけるのは、夢と希望なのだ。
そのことに改めて気づかされるとともに、
これは地球の裏側の、昔の話に終わらないと強く感じる。
レネと野党のお偉方とのやりとりを観ていると、
そのまま日本のあの人、この人の主張そっくりに思えてしまう。

今、日本で、ぜひとも観るべき映画ではないだろうか。
特に市民活動家は好いお手本として、
クリエーターは、自分の力の使い所を考える上で、
必見である。

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この作品は2012年の東京国際映画祭で、
私がもっとも感銘を受けた映画です。
配給がついて日本に再上陸、本当にうれしい!

テンポ良く、月9業界ドラマのようなノリで始まりながら、
実はとっても深いお話。

民主主義を守るために、B層を動かせ!そのためには、

…という「手口」と「勇気」と「連帯」を見せてくれます。







シェールガス試掘権に揺れるカントリーサイド
農家の誇りと不安をえぐるマットデイモンの問題作

プロミスト・ランド_メイン

©2012 Focus Features LLC. All Rights Reserved
 

監督: ガス・ヴァン・サント
脚本: ジョン・クラシンスキー、マット・デイモン 
配給: キノフィルムズ
封切: 8月22日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほかにて
    全国ロードショー
公式サイト: WWW.PROMISED-LAND.JP

ストーリー●
スティーヴ・バトラー(マット・デイモン)は、
大手エネルギー会社のエリート社員。
シェールガス埋蔵地に赴いては
農場主から採掘権を借り上げる仕事をしている。
幹部からの信頼も厚く、
次の担当地域・マッキンリーで成功を収めれば、
さらなる昇進も確約されている。

自らも農家出身のスティーヴは、
農業がもたらす日銭の少なさも、
田舎町が企業撤退などであっという間に衰退していくのも
目の当たりにしていた。
だからこそ彼が説く
「あなたの土地にはシェールガスがある」
「試掘を許可するだけで、子どもを大学に行かせられる」
の言葉に真実味があるのだ。

いつものコンビ・スー(フランシス・マクドーマンド)と乗り込み、

いつものようにスーツを脱ぎ捨て、
カントリーな出で立ちで町民集会に参加、
「いっちょあがり」のはずだったが
今回の町は違った。

地元の元高校教師で実は
高名な科学者でもあるフランク(ハル・ホルブルック)が
「いったん試掘を始めたら、
 この土地は化学薬品まみれとなり、
 植物も動物も育たなくなる」と反論し始めたのである。

さらに彼に加勢するかのように、
環境活動家ダスティン(ジョン・クラシンスキー)も
乗り込んでくる。
必死でダスティンの汚点をつかもうとするスティーヴ。
ようやく「勝ち」が見えてきたとき、
スティーヴは重大な秘密を知ってしまう。

解説と見どころ●
過疎が進み、時代に取り残された広大な地は
洋の東西を問わず、グローバル企業に目を付けられる。
「夢のエネルギー」がシェールガスであれ原子力であれ、
それは変わらないのだということがよくわかる話である。

日本でも原発立地の「事前調査」を受け入れるだけで
その自治体にカネが落ちるので、
「受け入れなくてもそのカネは返さなくていい」
という条件を楯に、
住民を説得させようとした市長がいた。

それぞれの家庭に合った「はなぐすり」を効かせ、
ひとつひとつの農家をまわって
しらみつぶしに籠絡していくプロセスも同じ。


一方で、
そうした血肉の通った折衝は末端に任せ、
スカイプの向こうで「データ」だけを待っている背広組たち。

舞台となる町「マッキンリー」は、
アメリカのフロンティア精神の象徴のような風景を見せ、
「星条旗がペイントされた古い納屋」にすべてはこめられる。

民にとって国とは何か、
カネとは何か、職業とは何か、幸せとは何か。

スティーヴが、
真面目に考え真面目に生きて、
誇りを持って農家のためにその仕事をしているからこそ、
私たちは深く深く「生きる意味」を考えずにはいられない。


恋のさやあてあり、親子の確執あり、の
エンターテイメントでありながら、
今そこにある社会問題に真正面から取り組んだ、
見ごたえのある作品だ。

サブ6
©2012 Focus Features LLC. All Rights Reserved
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サブ5
©2012 Focus Features LLC. All Rights Reserved
サブ2
 
©2012 Focus Features LLC. All Rights Reserved


大人にこそ見てほしい名作
声優の生アテレコで綴るライブシネマ
ピノキオ
(C) B-Walter Studios_LAVAlabs



監督:アンナ・ジャスティス
 
第22回キンダー・シネマ・フェスティバルオープニング作品(8/13)
  (第22回キンダー・シネマ・フェスティバルは
   8/13(水)~17(日)調布グリーンホールにて開催
   事務局03-5355-1225)
 
公式サイト: http://kinder.co.jp

ストーリーと見どころ●
ディズニーのアニメーション映画であまりにも有名な、「ピノキオ」のお話。
ピノキオのイノセントなヤンチャぶりとゼペット爺さんの孤独、
友達の兄弟と両親との関係を中心に、
親子の何気ない日常と深い絆を描いている。

「ピノキオ? 知ってる知ってる」と言わず、
今こそ、そして大人こそ、見てほしい映画だ。

厳しいながら子を心配する親の気持ちや、
親をうっとうしく思っても最後は頼る子の気持ちなどが丁寧に描かれ、
改めて「ピノキオって深い話だ~」と感じずにはいられない。

また、
今回は、映像は実写とCGのコラボレーションで、
そこへ、
声優たちがその場でアテレコをするという「ライブシネマ」で上演される。

夏休み、
たった一度きりの上映。
時間の合う方は、ぜひ。


 
解説●
キンダー・シネマ・フェスティバルは、
東京都の調布市グリーンホールで毎年夏に開催、常に約1万人の動員がある。
今年は8月13日~17日。
各国大使館後援のもと、世代、環境、国籍を超え、すべての子どもたちに贈る
グローバルな子どもたちの映画祭は、
1992年、世界三大映画祭の一つであるベルリン国際映画祭
児童映画部門の協力を得てスタートし、今年で22回目を迎える。

年齢に合わせ、短編から長編までさまざまな作品が集い、
「みる」だけでなく、映画を「つくる」ワークショップも! 
クラウンとあそべるイベントもあり、
子どものペースで楽しめる文字通り「お祭り」だ。
 
特色である「ライブシネマ」は、
字が読めなかったり字幕を読むのに慣れない子どもが
外国映画を楽しめるようにという心遣い。
臨場感あふれる一発勝負の「ナマ吹き替え」は見事! 
日本が発祥の地で、外国の声優たちは尻込みするほど難しく、
世界に誇れる技術である。

「アンパンマン」の声などでおなじみの戸田恵子さんも声優として参加。
彼女は、この映画祭のチェアパーソンでもある。

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