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2015年01月

「甲子園」という人生の魔物

メインスチル「アゲイン」
 Ⓒ重松清/集英社 Ⓒ2015「アゲイン」製作委員会


監督・脚本:大森寿美男
原作:重松清「アゲイン」 
配給:東映 
封切 :1月17日(土)全国ロードショー
公式サイト :http://www.again-movie.jp/

ストーリー●
元高校球児の坂町 (中井貴一)は46歳。
白球を追った日々は遠い。
離婚した妻が亡くなって以来仕事にも張りがなく、
一人娘の沙奈美とも絶縁状態だ。
そんなある日、元チームメイト松川の娘・美枝(波瑠)が訪ねてくる。
彼女は震災で死んだ父親の遺品の中に、
チームメイト全員に宛てながら出していなかった
27年分の年賀状の束を見つけたのだ。
「なぜ毎年書きながらも、父はそれらを出さずにいたのでしょう?」
美枝が問いかけても、坂町は言葉を濁すのだった。

みどころ●
主役の中井貴一以下、 
「もう過去のことだから」と青春の日々に見切りをつけ、
それぞれの日常に甘んじてきた元球児たちの「うらぶれ感」がリアル。
いくら美枝が
「マスターズ甲子園でもう一度野球をやりましょう!」と働きかけても
自嘲の笑みとともに一歩さがるばかりだ。
それでも追ってくる美枝に、
押しこめてきた恨みつらみが、全身から噴き上がって暴れ出す。
彼女の父親こそが、彼らの「痛み」の原因だから。
 
過去を封印した中年男たちが、
傷つきながらも次第にかつての「全力投球」を思い出し、
家族とともに再生していく。
その過程がまさに「二度目の青春」として描かれる。

年末から年始にかけ、
「ミリオンダラー・ゲーム」「バンクーバーの朝日」「KANO」
そしてこの「アゲイン」と、野球映画の公開が続く。
国や時代は異なれど、いずれも球児たちのまっすぐなエネルギーと、
それに勇気づけられる大人たちが描かれていて興味深い。
野球には、男たちに「真っ向勝負」を想起させるスイッチがあるのかもしれない。

 

学芸員の「プレゼン」が圧巻! きっとあなたも絵が好きになる

NationalGallery2
Ⓒ2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience.  All Rights Reserved.

監督・編集・録音:フレデリック・ワイズマン

配給:セテラ・インターナショナル

封切:1月17日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開


ストーリーとみどころ●
1842年創立の英国初の国立美術館、ナショナル・ギャラリー。
小さいながらも珠玉の美術品が揃うこの美術館に、
ドキュメンタリーの鬼才、フレデリック・ワイズマンが3カ月にわたり密着取材。
各作品と、美術館を支える人々にスポットライトを当てる。

単なる「バックステージもの」ではなく、
作品一つひとつの持つ魅力に焦点が当てられているのが
芸術を愛するワイズマンらしい。

特に、美術館の入場者に対し
実際に行われている10分間解説をそのまま撮影しているのだが、
この
「プレゼン」がとてもステキなのだ!
学芸員たちがその絵の中に何を発見し、
どんなきっかけで美術を愛するようになったのかを情熱的に語る。
彼らの「感動」が、美術品の芸術性と合体して
観る人々の心を揺り動かす様子は、
美術館が芸術や美の知への扉であることを証明している。

また、
絵画修復を手掛ける人々の驚愕の緻密さに
イギリス人らしさものぞいて微笑ましい。

最後に、英国ロイヤルバレエのダンサーが
ギャラリーの中でパ・ドゥ・ドゥを踊るが、
時を越えてそこにある絵画と現代の芸術家が並び立ち溶け合う瞬間には
何とも言えぬ美しさがある。
美術館という空間そのものが、すでに一級の芸術品であることを実感した。

3時間という長丁場で、ストーリーがあるわけでもないが、
意外にも長いと感じない。
ひとつひとつの作品に物語があるからだろう。

ロンドンに行ったら絶対ナショナル・ギャラリーに行って、
「10分間解説」を聞きたいと思う。

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Ⓒ2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience.  All Rights Reserved.

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Ⓒ2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience.  All Rights Reserved.

*英国ロイヤルバレエのダンサーは、エドワード・ワトソンとリアン・ベンジャミン。
 リアン・ベンジャミンは、熊川哲也がロイヤルバレエ在籍中、何度もペアを組んだ人である。 

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