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2015年02月

3組の夫婦と1人の男が織りなす熟年恋愛の寓話

愛して飲んで歌ってメイン
Ⓒ2013 F COMME FILM – FRANCE 2 CINÉMA – SOLIVAGUS


監督:アラン・レネ
原案戯曲:アラン・エイクボーン「Life 0f Riley」(お気楽な生活) 
配給:クレストインターナショナル 
封切 :2月14日(土)岩波ホールほか全国順次ロードショー
公式サイト :http://crest-inter.co.jp/aishite/

ストーリー●
とある春の日。
医師のコリンとその妻カトリーヌは、
素人芝居に出るべく夫婦で稽古に余念がない。
そこへ、友人ジョルジュが余命いくばくもないという連絡が入る。
「医師の守秘義務」をかたくなに守ろうとするマジメ人間コリンに対し、
おしゃべりおばさんのカトリーヌはすぐさまタマラに電話。
タマラの夫・ジョルジュはジャックの大親友だったのだ。
ジャックはひどく嘆き、
最近ジョルジュと離婚した元妻モニカに、
元夫と最期の時を過ごしてもらいたいと懇願しにいく。
すでに農夫シメオンとの新生活に入っていたモニカは、
初め渋っていたものの、シメオンを説き伏せジョルジュのもとへ。
一方、
カトリーヌはジョルジュを芝居に引っ張り出すことを提案する。
「ジョルジュを励まし、生きる希望を与えたい!」
芝居の中でラブシーンを演じるジョルジュとタマラは何やらいいカンジ。
今までタマラを顧みず浮気ばかりしてきたジャックにも、
妻の変化がどうにも気になり始めてくる。
そこにカトリーヌとジョルジュとの「過去」が明るみに!
春夏秋冬を穏やかに暮らしていた3組の夫婦の暮らしが、
思いがけずやってきたつむじ風に翻弄される。

みどころ●
2014年3月、 名監督アラン・レネ氏が91歳で死去した。
 「去年マリエンバードで」など、難解な作風でも知られるが、
その一方で軽妙なユーモアやエスプリが大好きだった。
そんな彼がこよなく愛したのが、イギリスの演劇作家アラン・エイクボーン。
この「愛して飲んで歌って」は、
そのエイクボーンの「お気楽な生活」を原作にしている。 
カトリーヌ役のサビーヌ・アゼマは、レネ監督の妻。

戯曲を原作としているせいか、
書割にブルッチのバンド・デシネ(漫画)を用い、
室内も家の庭も、敢えて「つくりもの」感を強調。

それによって熟年夫婦のやりとりは
「いつ、どこで、誰が」がずんずんそぎ落とされていく。
エッセンスがとぎすまされた結果、
大人の恋のドロドロやえぐみは消えて、
ある種大人のおとぎ話のように微笑ましい寓話になった。

それでもリアルさが保たれているのは、
良妻賢母を演じてきたタマラ(カロリーヌ・シオル)が
老いらくの恋に自分を解放していくさまが
大きなエネルギーを生み出しているからではないだろうか。

リッチな浮気男。
KYなマジメ一辺倒男。
恋多き女。
良妻賢母に命をかけてきた女。
自己チュー女。
自己チュー男。

3組の夫婦が最後におさまるところはどこなのか。
そのとき、3人の女友達の友情はどうなるのか。
ちょっと惜しいような、でもほっとするような、味わいのあるラストが
私は大好きだ。

祭の中、誰も予想しえなかったラストに息をのむ!
「歌なし、踊りなし、それでもインド」なエキゾチック・サスペンス


美女は二度微笑むメイン


監督:スジョイ・ゴーシュ
配給:ブロードウェイ/配給協力:コピアポア・フィルム 
封切 :2月21日(土)ユーロスペースほか全国順次公開
公式サイト :http://megami-movie.com/cast.html

ストーリー●
コルカタの国際空港に、美しき妊婦ヴィディヤが降り立った。
はるばるロンドンからやってきた彼女の目的は、
1ヵ月前に行方不明になった夫のアルナブを捜すこと。
ところが宿泊先にも勤務先にも夫がいたことを証明する記録は一切なく、
ヴィディヤは途方に暮れてしまう。
そこに、夫と瓜ふたつの風貌を持つミラン・ダムジという人物の存在が浮上。
はたして夫アルナブはミランと同一人物なのか、
それとも、無関係なのか。
少々頼りなくも誠実な警察官・ラナの協力を得て、
ヴィディヤはミランの謎に近づこうと試みる。
しかしコンタクトをとった協力者は次々と殺害され、
ヴィディヤ自身にも危険は迫る。
彼女は2年前の無差別テロで未解決の
国家的犯罪の闇に巻き込まれてしまったのだ。

みどころ●
インド映画というと、
「歌あり踊りあり、3時間は当たり前の長編」で、
「少し冗長だけど喜怒哀楽がはじけて最後はハッピー」
という印象が強いが、
今回は歌も踊りもなく、時間も123分とコンパクト。

その2時間の中に凝縮された
無駄のないストーリー運びには舌を巻く。
テンポよい展開、
謎が謎を呼び飽きることがなく、
緻密に張りめぐらされた伏線にからめとられ、
主人公ヴィディヤを演じるヴィディヤー・バーランの黒い瞳に
冒頭からぐんぐんと吸い込まれていく。

ヴィディヤとアルナブはロンドン在住で、
新婚の若いインド人夫婦。
妻はキャリアウーマンで二人ともITに強く
妊婦をおいてのインド出張を夫は躊躇。
しかし妻は「そんなこと言わないでちゃんと仕事しておいで」と
明るく送り出す。などなど、
現代を生きる女性が感情移入できる描き方になっている。

その最愛の夫が行方不明になって
自力で探すべく、
強い意志と知性で謎を解いていくヴィディアとともに
私たちもインドの町の奥深くまで潜りこんでいくのだが、
思わず息をのむラストは本当に圧巻。
これまでの伏線が走馬灯のように流れ、
次の瞬間、ああ、なるほど~、とぐるぐるに巻かれた縄がすべてほどける。

クライマックスにインドの祭りやサリーがうまく活用され、
エキゾチックな光景が気分をいっそう高揚させる。
「ハリウッドも認めた…」と、普遍的ドラマをうたい文句にしてはいても、
地域性をきっちり組み込んでいる。

他のどこにもない色鮮やかなビジュアルと胸沸き立つ音楽性を持つインド映画。
強烈な地域性こそが強みだったが、
加えてスタンダードな物語性をついに獲得。
この1作はその両者がマッチした幸せな結婚と言ってよい。

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