仲野マリの気ままにシネマナビ online

投稿誌「Wife」に連載中の「仲野マリの気ままにシネマナビ」がWebの世界に飛び出しました!

2015年04月

たくましき江戸の女たちが縁切寺に賭ける第二の人生

駆け込み女メイン

Ⓒ2015「駆込み女と駆出し男」製作委員会

監督:原田眞人
配給:松竹
封切 :5月16日(土)より全国順次公開
公式サイト :http://kakekomi-movie.jp/


ストーリー●
天保12年。
時代は水野忠邦の「天保の改革」により質素倹約がよしとされ、
芝居や戯作本など娯楽への取締も強くなっていた。
医者の卵でありながら戯作者も志す中村信次郎(大泉洋)は、
住みにくくなった江戸を離れ、
鎌倉・東慶寺の門前にある親戚の家・柏屋に身を寄せる。
東慶寺は、女性から離縁できなかった江戸時代、
駆込んで2年寺に籠れば女性からでも離縁ができる寺として有名で、
柏屋は駆込んだ女性たちの事情を聞くための御用宿、
いわば離婚調停人の役割をする場所だった。
信次郎は御用宿での聞き取りを手伝うようになる。
そこへ駆け込んできたじょご(戸田恵梨香)とお吟(満島ひかり)。
夫(武田真二)の浮気とDVで心を閉ざすじょごは、
源次郎のやさしさに触れ、少しずつ心を開いていく。
一方お吟は、
豪商堀切屋(堤真一)の囲われ者で、何不自由なく暮らしていたのに駆け込んでくる。
「愛されすぎて身がもたない」というのがその理由だが、
実はお吟にも、夫の堀切屋にも、互いに言えない秘密があった。

みどころ●
原作は井上ひさしの「東慶寺花だより」。
駆込んできた女性一人一人の人生と行く末を描く短編から成る。
最近では市川染五郎主演で歌舞伎でも上演された。
単に「哀れな女性が最後の救いを求める」というだけにとどまらず、
自分らしく生きようと決断し、
新しい人生を選択する女性たちの逞しさや、
彼女たちを温かく見守る周囲の人々の
庶民ならではの知恵の集積が小気味よい。
そこに井上ひさしらしい笑いと
人間の生活力を信じる優しいまなざしを感じる。

時代劇初挑戦の原田眞人監督は、
黒澤明作品を初めとする日本の時代劇映画に連なろうと、
江戸風物と色彩にこだわって丁寧な映像作りに徹した。
本格的な作風は、時代劇ファンにはうれしい限りだ。
細部にこだわる井上ひさしワールド構築にもつながっている。
一方で、
時代劇馴れしない精神が現代人にもわかりやすい人物描写を生み、
アクションありロマンスあり笑いありの展開の早さで
2時間半という長尺をちっとも感じさせない。
この映画をきっかけとして
時代劇に興味を持つ人も増えるのではないだろうか。

駆け込み女サブB
 Ⓒ2015「駆込み女と駆出し男」製作委員会

阿修羅城2003ポスタ-
Ⓒ2015 ゲキ×シネ『阿修羅城の瞳2003』/松竹、ヴィレッヂ


劇団☆新幹線と染五郎のコラボで生まれた
いのうえ歌舞伎の真骨頂!
惹かれあう男と女の横顔に潜む鬼の影

作: 中島かずき
監督:いのうえひでのり
配給:ヴィレッヂ/ティ・ジョイ
封切:4月11日(土)より全国ロードショー 
映像制作:イーオシバイ
舞台製作:松竹
Ⓒ2015 松竹 ヴィレッヂ

ストーリー●
時は文化文政。
江戸の闇にまぎれ、人の姿を借りた鬼たちが、
人を喰らい、人の世を滅ぼそうとしている。
それに対し、人間側も
特務機関「鬼御門(おにみかど)」を組織し、対抗していた。
病葉出門(わくらば・いづも=市川染五郎)はその鬼御門の中でも
「鬼殺し」の異名をとった辣腕剣士だったが、
5年前ふっつりと姿を消し、今は鶴屋南北の一座に弟子入りしていた。
 
その一座の小屋に、
ある日逃げ込んできた謎の女・つばき(天海祐希)。
彼女は鬼御門の長である十三世阿倍清明(近藤芳正)の
殺害現場に居合わせていた。
つばきは無実を訴え、背中のアザを見せて、
出門に「このアザの意味と自分の過去を探してくれ」と頼むのだった。

見どころ●
劇団☆新感線の舞台を、
ライブ感そのままに映像化したゲキ×シネ。 
「阿修羅城の瞳」は初めて映画館でテスト上映をした
ゲキ×シネにとって原点ともいうべき作品だ。

とにかく殺陣が半端ない。
1ミリもゆるがせにしないハードボイルド。
重量級のアクションを間近でとらえるカメラワークが
思わず身をのけぞらせるほど身近にその迫力を伝える。
加えて、
随所にちりばめられる、笑いのツボ! そして音楽!ダンス! 
絶対に客を飽きさせないぞ、というシーン展開の速さには、
執念さえ感じられる。
 
その分、物語は単純な勧善懲悪かと思いきや、
冒頭でいきなり裏切り勃発! 
「鬼の軍団vs鬼御門」を軸にしながらも、
登場人物はそれぞれが闇の部分を抱え、
一筋縄ではいかない展開が続く。

俳優陣も適材適所、いい味を出している。
特に、市川染五郎は、
歌舞伎俳優としての経験と実力をいかんなく発揮。
身体能力もさることながら、
場面場面で三枚目から正義の味方、殺人鬼、そして女への純愛、と
多面体の主人公・出門を見事に表現。
演じ方によっては単に場面をつなぐ狂言回しになってしまうところ、
男の色気とスターのオーラで空気を支配した。
後半、出門が鬼御門を去った理由に
つばきが関係していたことがわかったときの衝撃も、
波動となって観客に伝わってくる。
 
対する天海祐希、
前半は、「予感」を封じこめながら自分の本当の姿を探し求めるつばきを、
ひたむきに生き、悩み、恋する等身大の女性として演じ、大いに共感を呼んだ。
だからこそ終盤、
真の姿になったときの無表情との間に落差が生まれ、
あたかも弥勒のごとき輝きを放って一瞬で「転生」を理解させたのだ。

運命にあらがうように生き切る出門とつばきのラストシーンは、
欲望のため、快感のため、生きるため、
いつだって鬼にも蛇にもなる人間のあさましさが、
さながら愛を触媒にして昇華し、結晶となったかのようだ。

今回、劇団☆新感線35周年記念として、
デジタルリマスター版でよみがえった本作品。 
よみがえらせるだけの価値はある。
15年経ってますます人を酔わせる名作である。

*ライブビューイング系の映画は特別料金が設定されることが多いが、
 この作品は通常の映画と同じ、1800円で見られる。
 175分と、約3時間ノンストップだが、長さを感じさせない。 
 22歳以下は1000円で見られる「ヤングチケット」もあるので、
 気軽に足を運んでみては?
 


阿修羅城2003
Ⓒ2015 ゲキ×シネ『阿修羅城の瞳2003』/松竹、ヴィレッヂ

このブログを始めたのが、2014年の2月。
隔月刊の「Wife」が3カ月に1回発行の季刊になるのを受けて、
タイムリーに封切映画をご紹介することが難しくなると考え、
ウェブでも展開しようという試みでした。

それによって雑誌「Wife」のページも
投書は大幅リニューアルするつもりでしたが、
結果として、
やはり発行時期に合わせて封切映画を紹介するという形は
あまり変化せず今に至ります。

Webのほうも、
「ロードショウ」にこだわると、
試写を見て、そこからセレクトして掲載しているために、数に限りがあり、
更新の回数を容易に増やすことができません。

との差別化があまりないのであれば、
逆にWebのほうをリニューアルしよう、ということで、
この4月から、
以下のようにカテゴリーを増やし、掲載範囲を広げようと思います。

「ロードショウ」=これまでアップしてきたように、公開日に合わせて新作映画を紹介。
           (必ず試写を見て、映画を紹介。作品画像あり)

「新作情報」=上記を同じく新作映画の紹介だが、映画会社のプレスリリースをもとに
          試写視聴なしでの紹介。作品画像はある場合とない場合がある)

「映画祭」上映回数が少ない、今後の配給が決まっていないなど、
         今後上映される見通しがなくても、観て面白いと思ったものは
         試写・一般上映どちらでも載せる。取り寄せ可能なものは画像あり。
          
「過去の作品」=TV放送、DVDなどで改めて見直した映画のレビュー。

「Wifeアーカイブス」=2006年12月発行323号から2013年6月発行362号まで
               隔月刊「Wife」に連載した作品を再掲載。

「転載」=過去、個人ブログ「ガムザッティの感動おすそわけブログ」で掲載した
       過去の映画レビューを再掲載あるいは当該レビューページの紹介。

赤字のカテゴリー・・・現在の動き(映画館でこれから見る映画の情報)
青字のカテゴリー・・・過去の作品(DVDなどで楽しむ、あるいは
             リバイバル上映で楽しむための情報)

当分は試運転状態ですが、
まずは頻繁に更新していくことを主眼としたいと思います。
これからも、「仲野マリの気ままにシネマナビonline」をよろしくお願いいたします。

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