仲野マリの気ままにシネマナビ online

投稿誌「Wife」に連載中の「仲野マリの気ままにシネマナビ」がWebの世界に飛び出しました!

2015年08月

「俺もあとから行くからな」と言った上官が行ったためしはない!
~埋もれていた特攻の真実を集めて~


筑波メイン


監督:若月 治
配給・宣伝:シグロ
封切 :8月1日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開


ストーリー●
茨城県笠間市には、
かつて戦闘機の教育部隊であった筑波海軍航空隊の司令部庁舎が、
「筑波海軍航空隊記念館」として保存されている。
ここで訓練を積んだ受けた84名の若者が、
沖縄戦のための特攻隊に編入され、60名が亡くなっている。
地元の有志達は記念館設立を機に「プロジェクト茨城」を立ち上げ、
自分たちの町にとってあの戦争はなんだったのか、
戦跡の保存や資料の収集に取り組み始めた。
特攻隊員で生き残った人々のうち、生存者は数えるほどしかいない。
一人ひとりを丁寧に取材し、
彼らの青春の日々と悔恨をあぶり出す。

みどころ●
茨城県笠間市の人々が、自分たちの町に埋もれていた戦争の事実を
丁寧に掘り起こしていくドキュメンタリー。
生き残った特攻隊員たちの証言も傾聴に値するが、
民家から出てくる戦時中の写真や資料にも目を見張る。
淡々とした中に、戦争の記憶を残そうという気概が見える。
そして、戦争を「かつてあったこと」ではなく
「そこに自分がいたらどうするか」をつきつめながら
証言者たちと対峙するメンバーの真剣な態度に胸を打たれた。


私は昭和30年代の生まれなので、
戦争中の話は本、マンガ、映画、テレビ、学校、親の話と
いろいろな形で聞いてきた世代だ。
だから率直に言うと、
それほど目新しい情報があるという映画には思えなかった。
しかし、
若い人たちはこの映画を通して、初めて知ることも多いだろう。
伝える、発信する、ということは、本当に重要なことだと痛感する。

戦後70年。
話せばつらい、と口をつぐんでいた人々が
今口を開かねば、と重い腰をあげている。
証言者たちは率直に、事実を次の世代に渡そうとしているように見えた。

戦争は特攻だけではない。軍人だけが戦争をしていたわけでもない。
戦争にまきこまれていった市井の人々、
その人の数だけ戦争の記憶があり、
その一つ一つのかけらをつなぎ合わせるようにして初めて、
戦争の真実のかたちがみえてくるのではないだろうか。

ザ・ビーチボーイズの真実~
心を病んだ天才ミュージシャンの20年後

メイン
Ⓒ2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

監督ビル・ポーラッド
配給:KADOKAWA
封切 :8月1日(土)より角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー


ストーリー●
1960年代、
「サーフィンUSA」などのヒット曲で一世を風靡したザ・ビーチ・ボーイズ。
その中心的存在ブライアン・ウィルソン(ポール・ダノ)は、
天才的な作曲能力を持っていたが人見知りで、
コンサートツアーよりスタジオでの曲作りが好き。
没頭して斬新すぎる楽曲を連発するうち、やがて神経を病むようになる。
20年後、
中年男になったブライアン(ジョン・キューザック)は
精神科医ユージン(ポール・ジアマッティ)の監視下で生活していた。
ブライアンと交際し始めたメリンダ(エリサベス・バンクス)は、
彼に家族との面会までも禁じるユージンの
強過ぎる支配に疑問を持つ。

みどころ●
有名ミュージシャンの成功物語、あるいは
栄光から転落していくさまをつづった映画は多い。
今回も、前半は若大将の波乗り気分でヒットソングの連続が気分を高揚させる。
しかし、ブライアンが音楽と真っ向勝負するあたりから、
話は逆に「音楽」という特殊性を離れ、
ナイーブな若者であれば誰にでも起こりうる心の闇に分け入ることとなる。
たまたま主人公が有名ミュージシャンなだけで、
これは医師の横暴と策略により自分らしく生きる権利をはく奪され、
食い物にされた精神患者の苦悩と再生をテーマにした物語なのだ。
 
ユージンに扮したポール・ジアマッティが
怪僧ラスプーチンのような眼力でブライアンを洗脳、
精神患者の後見制度が持つ問題を浮き彫りにしている。
過去と現在の描写切り替えは、
才能のおもむくまま生きた若き日と、
ユージンの一言一句におびえる中年以降とを分け、
ブライアンを二人の俳優で演じる方式が成功している。

ラスト、
ブライアン・ジョーンズ本人の現在の姿が映し出されるのが、
救いであり、最高のハッピーエンドだ。

サブ2
Ⓒ2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

サブ1
Ⓒ2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

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