仲野マリの気ままにシネマナビ online

投稿誌「Wife」に連載中の「仲野マリの気ままにシネマナビ」がWebの世界に飛び出しました!

カテゴリ: 女の生き方

どんなハカリがあれば、人生の重みを比べることができるのだろう?

【大】1001グラムメイン (2)

 BulBul Film, Pandora Film Produktion, Slot Machine © 2014


監督/脚本/製作:ベント・ハーメル
配給:有限会社 ロングライド
封切 :10月31日(土)より渋谷 Bunkamura ル・シネマほか全国ロードショー!
公式サイト :http://1001grams-movie.com

●あらすじ
ノルウェー国立計測研究所に勤めるマリエ(アーネ・ダール・トルプ)は、
黙々と仕事をこなす女性。エコ志向も強く、通勤は電気自動車だ。
同業のベテランである父が病気で倒れたため、父の代理でパリの国際会議に赴くことになる。
それはマリエにとってキャリアアップにつながる大きな仕事だが、
ノルウェーに1つしかないキログラム原器を携えての出張は緊張の連続。
埃一つ付いても重さが違ってしまうため、何重にも容器に入れられた原器の扱いは、
外気に触れぬよう空港の税関でも荷物検査を免れるほどの厳重さが求められるのだった。
ところが出張から帰る車の中で、マリエは車両事故を起こし、原器も車から放り出されてしまう。

●みどころ
笑わない主人公である。
なぜマリエが無表情なのかは、寝室のダブルベッドに片方しか蒲団が敷かれていないことで察せられる。
研究所と自宅との往復と、たまに父親のいる農場へ行くくらいの起伏のない日々の繰り返すごと、
彼女の満たされない思いや息苦しさが積み重なる。
対照的に、出張先のパリは色鮮やかだ。パリはマリエに、人生の転機と勇気を与える。
感情をあらわにしない彼女が、たった2回だけ微笑む、その微笑が美しい。
また、
「ハカリ」や「重さ」にまつわるエピソードが、無機質でない奥行をもっているところにも注目。
計測に生涯をかけた父アーンスト(スタイン・ヴィンゲ)が、自らの「魂の重さ」を測るよう、
娘に託すシーンは感慨深い。「1001グラム」のナゾはそこに関係がある。
ラストシーンの会話は、「フィート」や「インチ」など、昔ながらの測定単位の語源を知っていると、さらに楽しめる。
“キログラム原器”という冷たい金属の塊を題材にしながら、
人のぬくもりや家族の絆、そして自然を強く感じさせる不思議な作品である。

「ウーマンリブ」を知っていますか?

何を怖れる
 ©2014「フェミニズムを生きた女たち」をつくる会

企画:田中喜美子
監督:松井久子 
制作:「フェミニズムを生きた女たち」をつくる会
配給:AMGエンタテインメント 
公開: 1月17日(土)~2月6日(金)渋谷シネパレス
    2月7日(土)~2月20日(金)横浜シネマリン
公式HP  http://feminism-documentary.com

ストーリー●
1971年8月、長野県で「第一回リブ合宿」が開催された。
「リブ」とは「ウーマンリブ」の「リブ」。
すると北から南から、
赤ん坊を連れ、幼児を連れて女性たちが次々とやってくる。
その数400人。
小さいヒュッテはあっという間にすし詰め状態となった。
 
‘なぜ女であることが、こんなにも理不尽で窮屈なことなのだろう?’
ただそう思っていた女性たちだ。
「何を話してもいい場所がある。わかってくれる人がいる!」
しかし当時のマスコミは
「ウーマンリブ」「女性解放」を「男の全否定」としてとらえ、
専ら「男勝りの」あるいは「女を捨てた」女性たちのヒステリー行動として
揶揄し、興味本位で取り上げていた。
この映画は、
そうした時代に「女性も1人の人間である」ことを高らかに宣言し、
行動した人々の記録である。
 
みどころ●
今や著書「おひとりさまの老後」などでおなじみの上野千鶴子氏、
女性問題だけでなく、政治・生活一般の評論家として活躍する樋口恵子氏、
アクティブミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」館長である
池田恵理子氏、など、など、など。
スクリーンには
この40年の間に女性が個人として耀くために行動した
多くの大先輩たちが次々と登場し、
当時の光景や匂い、思いを語る。

「ウーマンリブ」というと、
当時はほとんどキワモノ扱いで、
学生運動の片隅の女性たちくらいの認識か、
あるいはフリーセックス信奉者のような烙印を押されていた。

しかし彼女たちの言葉に改めて耳を傾けてみると、
そこにあるのはなにがしかの「イデオロギー」ではなく、
産み、育て、生きる、原初的な
「人間としての意志とエネルギー」のみ。
ただ自分の思うように生きたい、
女だからという理由でそれを阻まれたくない、という
一途な思いだった。

若かりし頃の彼女たちの、
高い理想、道を開こうとする行動力、
熱き血潮の生命力は、
先駆者としてまぶしく、驚異的である。

現在は
女性の権利を主張するのは当たり前であるし、
主張する女性を正面切って揶揄する男性も少なくなった。
でも一方で、
解決しなくてはならない問題はたくさん残っている。
彼女たちに託されたバトンを
私たちは取り落とさずに次の世代に渡せるだろうか。

「ウーマンリブ」を知らない人世代にも、
「ウーマンリブ」とは距離をおいてきた人にも、
「ウーマンリブ」を言葉としてしか知らない人たちにも
一度観ていただきたい。
 
NHKで多くの上質なドキュメンタリーをつくった故・松井やより氏が、
組織内でいかに闘ってそれらを世に出して来たかの証言もあり、
今、この時代に生きる私たちにも
行動する勇気と覚悟をもたらす映画となっている。

 *この映画を企画したのは
「わいふ」の編集長を長く務めた田中喜美子氏。
「わいふ」はこの「気ままにシネマナビ」を連載している「Wife」の前身である。

「絆」と書いて「しがらみ」と読む、母娘の物語
 
8月の家族たち:メイン

©2013 AUGUST OC FILMS, INC. All Rights Reserved.

 
監督: ジョン・ウェルズ
配給: アスミック・エース
封切: 3月1日(土)ヒューマントラスト有楽町ほか全国順次ロードショー

ストーリー●
父失踪の知らせを受け、実家に駆けつけた3人の娘たち。
母(メリル・ストリープ)は、がん治療で薬漬けの日々だが、
勝気は相変わらずで毒舌全開。
特に長女ベバリー(ジュリア・ロバーツ)とは寄ると触るとケンカが始まる。
ベバリーも夫と別居状態で心が落ち着かないのだ。
やがて父親の遺体発見。事故なのか、自殺なのか。
家族の秘密が、少しずつひもとかれていく。
(4月18日よりTOHOシネマズシャンテ他ロードショー)
 
みどころと解説●
結婚や子育てに行き詰り、自分のやり方や価値観が揺らぐ時がないだろうか。
母親を反面教師に独立したのに、
気がつけば「母親似」になっていることにたじろぐことが…。

母親役のメリル・ストリープの、女の業(ごう)に負けまいとする
気概と悲哀がないまぜになって押し寄せる怪物的演技には圧倒される。

しかし彼女の重低音はあくまでベースで、
仕切り屋の長女、男に惚れっぽい次女、目立たない三女の物語にこそ真実味が。
「なりたかった自分」と「なれなかった自分」が、残酷に錯綜しながら展開する。

特に注目したいのが三女アイビーだ。
実家の近くにいてくれてよかったという姉たちに、
「本当は自由になりたかった。2人が出て行ったからとどまるしかなかった」と、
本心を吐露する場面に真実味がある。
 
長い不在とカンチガイを超えて、
アイビーも自分らしい生き方を選べると思ったときに
唐突に暴露される秘密の冷酷さ。
すべてを知ってもう一度最初から見たい映画である。


8月の家族たち:サブ1
 
©2013 AUGUST OC FILMS, INC. All Rights Reserved.



「イヤ」と言えないすべての女性に
~今語られる「ディープスロート」の真実~

ラヴレース:メイン
©2012 LOVELACE PRODUCTIONS,INC.ALL RIGHTS RESERVED
 
監督: ロバート・エプスタイン/ジェフリー・フリードマン
配給: 日活
封切: 3月1日(土)ヒューマントラスト有楽町ほか全国順次ロードショー
公式サイト: http://lovelace-movie.net/

ストーリー●
1970年、フロリダ。
21歳のリンダ(アマンダ・セイフライド)は女友達と遊びに行った帰り、
バーの経営者チャック・トレーナーと出会う。
厳格なカトリック信者の両親のもとで育ったリンダは
自由奔放なチャックに傾倒、親の束縛から逃れるように家を出る。
自分らしい生活を夢見て決めた結婚だったが、
それは新たな「束縛」の始まりだった。
金策のため、リンダは夫の言うままにポルノ女優に。
主演映画「ディープスロート」は社会現象的な大ヒットとなるが、
チャックは金を使い果たし、リンダにさらなる犠牲を強いる。


解説とみどころ●
なぜ女性は、好きな男性に「イヤ」といえなくなるのだろう。
「今はイヤ」「そんなことはイヤ」「絶対イヤ」…その一言が言えれば…。
いや、言ったとしても、男は切り返してくる。
「愛していればできるはず」「愛しているから頼むんだ」
―そして、その「愛」を「セックス」とイコールにして女を説得する。
殴っても、罵倒しても、
最終的に抱いてしまえばこっちのものだと思っている。
 
ひどく殴られた晩、リンダが実家に救いを求めるシーンが切ない。
母親(シャロン・ストーン)は一言、「夫には従うものよ」と言い放つ。
子は親に、妻は夫に、従順であることだけを美徳とする価値観が、
リンダから退路を奪うのだ。
 
この映画を「かつて一世を風靡したポルノ映画の
伝説的主演女優の半生」とくくるのはたやすい。
しかし、描かれているのは特別な女性ではない。
まじめで優しくて、ちょっと世間知らずな女の子なら、
誰でもいつでも陥ってしまう蟻地獄である。
人生の袋小路にはまるずっと手前で逃げられるよう、
「イヤ」と言い通せる強さと賢さが心底欲しくなる作品である。

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