「歌なし、踊りなし、それでもインド」なエキゾチック・サスペンス

配給:ブロードウェイ/配給協力:コピアポア・フィルム
ストーリー●
はるばるロンドンからやってきた彼女の目的は、
1ヵ月前に行方不明になった夫のアルナブを捜すこと。
ところが宿泊先にも勤務先にも夫がいたことを証明する記録は一切なく、
ヴィディヤは途方に暮れてしまう。
そこに、夫と瓜ふたつの風貌を持つミラン・ダムジという人物の存在が浮上。
はたして夫アルナブはミランと同一人物なのか、
それとも、無関係なのか。
少々頼りなくも誠実な警察官・ラナの協力を得て、
ヴィディヤはミランの謎に近づこうと試みる。
しかしコンタクトをとった協力者は次々と殺害され、
ヴィディヤ自身にも危険は迫る。
彼女は2年前の無差別テロで未解決の
国家的犯罪の闇に巻き込まれてしまったのだ。
インド映画というと、
「歌あり踊りあり、3時間は当たり前の長編」で、
「少し冗長だけど喜怒哀楽がはじけて最後はハッピー」
という印象が強いが、
今回は歌も踊りもなく、時間も123分とコンパクト。
その2時間の中に凝縮された
無駄のないストーリー運びには舌を巻く。
テンポよい展開、
謎が謎を呼び飽きることがなく、
緻密に張りめぐらされた伏線にからめとられ、
主人公ヴィディヤを演じるヴィディヤー・バーランの黒い瞳に
冒頭からぐんぐんと吸い込まれていく。
ヴィディヤとアルナブはロンドン在住で、
新婚の若いインド人夫婦。
妻はキャリアウーマンで二人ともITに強く
妊婦をおいてのインド出張を夫は躊躇。
しかし妻は「そんなこと言わないでちゃんと仕事しておいで」と
明るく送り出す。などなど、
現代を生きる女性が感情移入できる描き方になっている。
その最愛の夫が行方不明になって
自力で探すべく、
強い意志と知性で謎を解いていくヴィディアとともに
私たちもインドの町の奥深くまで潜りこんでいくのだが、
これまでの伏線が走馬灯のように流れ、
次の瞬間、ああ、なるほど~、とぐるぐるに巻かれた縄がすべてほどける。
エキゾチックな光景が気分をいっそう高揚させる。
「ハリウッドも認めた…」と、普遍的ドラマをうたい文句にしてはいても、
地域性をきっちり組み込んでいる。
他のどこにもない色鮮やかなビジュアルと胸沸き立つ音楽性を持つインド映画。
強烈な地域性こそが強みだったが、
加えてスタンダードな物語性をついに獲得。
この1作はその両者がマッチした幸せな結婚と言ってよい。