仲野マリの気ままにシネマナビ online

投稿誌「Wife」に連載中の「仲野マリの気ままにシネマナビ」がWebの世界に飛び出しました!

カテゴリ: サスペンス

祭の中、誰も予想しえなかったラストに息をのむ!
「歌なし、踊りなし、それでもインド」なエキゾチック・サスペンス


美女は二度微笑むメイン


監督:スジョイ・ゴーシュ
配給:ブロードウェイ/配給協力:コピアポア・フィルム 
封切 :2月21日(土)ユーロスペースほか全国順次公開
公式サイト :http://megami-movie.com/cast.html

ストーリー●
コルカタの国際空港に、美しき妊婦ヴィディヤが降り立った。
はるばるロンドンからやってきた彼女の目的は、
1ヵ月前に行方不明になった夫のアルナブを捜すこと。
ところが宿泊先にも勤務先にも夫がいたことを証明する記録は一切なく、
ヴィディヤは途方に暮れてしまう。
そこに、夫と瓜ふたつの風貌を持つミラン・ダムジという人物の存在が浮上。
はたして夫アルナブはミランと同一人物なのか、
それとも、無関係なのか。
少々頼りなくも誠実な警察官・ラナの協力を得て、
ヴィディヤはミランの謎に近づこうと試みる。
しかしコンタクトをとった協力者は次々と殺害され、
ヴィディヤ自身にも危険は迫る。
彼女は2年前の無差別テロで未解決の
国家的犯罪の闇に巻き込まれてしまったのだ。

みどころ●
インド映画というと、
「歌あり踊りあり、3時間は当たり前の長編」で、
「少し冗長だけど喜怒哀楽がはじけて最後はハッピー」
という印象が強いが、
今回は歌も踊りもなく、時間も123分とコンパクト。

その2時間の中に凝縮された
無駄のないストーリー運びには舌を巻く。
テンポよい展開、
謎が謎を呼び飽きることがなく、
緻密に張りめぐらされた伏線にからめとられ、
主人公ヴィディヤを演じるヴィディヤー・バーランの黒い瞳に
冒頭からぐんぐんと吸い込まれていく。

ヴィディヤとアルナブはロンドン在住で、
新婚の若いインド人夫婦。
妻はキャリアウーマンで二人ともITに強く
妊婦をおいてのインド出張を夫は躊躇。
しかし妻は「そんなこと言わないでちゃんと仕事しておいで」と
明るく送り出す。などなど、
現代を生きる女性が感情移入できる描き方になっている。

その最愛の夫が行方不明になって
自力で探すべく、
強い意志と知性で謎を解いていくヴィディアとともに
私たちもインドの町の奥深くまで潜りこんでいくのだが、
思わず息をのむラストは本当に圧巻。
これまでの伏線が走馬灯のように流れ、
次の瞬間、ああ、なるほど~、とぐるぐるに巻かれた縄がすべてほどける。

クライマックスにインドの祭りやサリーがうまく活用され、
エキゾチックな光景が気分をいっそう高揚させる。
「ハリウッドも認めた…」と、普遍的ドラマをうたい文句にしてはいても、
地域性をきっちり組み込んでいる。

他のどこにもない色鮮やかなビジュアルと胸沸き立つ音楽性を持つインド映画。
強烈な地域性こそが強みだったが、
加えてスタンダードな物語性をついに獲得。
この1作はその両者がマッチした幸せな結婚と言ってよい。

すべては視聴率アップや昇進のため?
テロリストからの電話オールライブの舞台裏

1テロ、ライブ

©2013 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
 

監督・脚本: キム・ビョンウ
配給: ミッドシップ/ツイン
封切: 8月30日、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次公開
公式サイト: terror-live.com

ストーリー●
国民的アナウンサーとして人気の高かったヨンファ(ハ・ジョンウ)は、
不祥事からニュースキャスターを降板、
系列のラジオ局に更迭されていた。
朝の生放送情報番組を担当しているものの、
気は乗らず、話し方も投げやりに。

そこにリスナーから1本の電話が。
ヨンファを指名して「大統領を呼べ、呼ばないと橋を爆破する」と脅迫する。
いたずらかと一笑に付した爆破予告が数十秒後に現実とになったとき、
ヨンファは「しめた!」とこぶしを握った。

「テロリストとの電話をテレビで独占生中継だ!
 番組の視聴率はうなぎのぼり。
 テレビ局に恩を売って、 俺はキャスターに返り咲く。
 そしてテロリストを説得、事件を終わらせ、
 俺は政府からも感謝される!」

独占放送を手柄にしたいチャ報道局長(イ・ギョンヨン)の協力で、
ヨンファのもくろみ通り、
ラジオブースにはテレビカメラが運び込まれ、
政府からネゴシエーター(チョン・ヘジン)が派遣される。

電話口のテロリストは、執拗にヨンファに要求を迫る。
政府もまた、ヨンファに細かく指示をしてくる。
ヨンファは両者に冷静さを求めるが、
テロリストは要求をじらされ激昂、
「筋書」はもろくも崩れ、
ついに漢江にかかる橋の中央で
2度目の爆破が起こってしまう。

そこにはレポーターとして
ヨンファの妻も駆けつけていた。


解説と見どころ●
生ぬるい空気の中、いつもと同じように始まる放送。
ところが一転して緊迫した空気に!
そこから始まる2時間の「テロ事件」の顛末を、
私たち観客も、まるで本当に「生中継」を見るように、
リアルタイムの2時間で経験する。

スピード&スリル満点な中に描かれるのは
「テロ」を生む背景だ。
国家やマスメディアなど、権力側の傲慢や、
無視され、虐げられ、叫び、抗う民衆の怒りがストレートに噴出、
思わずテロリストに感情移入してしまう。

ただ
この作品が善か悪かの単純な二者択一に終わらないのは、
ヨンファという一人の人間をフィルターとしているからだろう。

「国民的アナウンサー」という地位を得たヨンファが
得たものは人気と財力。
ではその代償として、
彼に求められていたものは何だったのか?

そのことに、最後に気づくヨンファの心の中に
この映画の核心がある。

「ありのままに」生き、
「現実」や「欲望」を肯定することが主流となりつつある現代。
そんな時代に「使命」を得て、
「理想」の世の中をつくることの難しさと大切さを
考えさせる問題作だ。

ラジオの放送室という閉鎖された空間でのやりとりが主だが、
同時に「テレビ中継」というシチュエーションで映像をうまく使っており、
映像によって取り込まれたブースの外の世界が
空間に広がりを与えている。


テロ、ライブ2
©2013 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.


諧謔と欲望の「キー」を突き止めるのは誰だ?


グランドピアノ1

(c)NOSTROMO PICTURES SL / NOSTROMO CANARIAS 1 AIE / TELEFONICA PRODUCCIONES SLU / ANTENA3 FILMS SLU 2013
 
監督:エウヘニオ・ミラ

配給:ショウゲート

封切:3月8日(土)より新宿シネマカリテほか全国ロードショー

公式サイト: http://grandpiano-movie.jp/

ストーリー●
トム・セルズニック(イライジャ・ウッド)は
5年ぶりのコンサートに向っていた。
有名女優の美人妻・エマ(ケリー・ビシェ)も、
この日の復活を待ち望んでいた。
コンサートは、
トムの師匠であり鬼才と呼ばれたパトリックの追悼のためのもので、
用意されたグランドピアノはパトリックの遺品。
通常より黒鍵が多い特殊な代物である。
かつてパトリックに並ぶ天才と言われながらこのピアノを弾いて失敗し、
それ以来ステージ恐怖症になったトム。
もう一度失敗したら、もう後がない。
そんな状況で、彼は意を決して弾きはじめる。
が、演奏が進み楽譜をめくると、そこにはありえない走り書きが!
「一音でも間違えたら、お前を殺す!」
「助けを読んだら眉間を撃ち抜く!」
恐ろしい緊張の中で1曲弾き終えたトムに、
姿の見えない脅迫者は、
5年前に失敗した難曲「ラ・シンケッタ」を弾くよう要求する。

解説と見どころ●
監督のエウヘニオ・ミラが音楽家でもあることから、
コンサートの描写に手抜きがない。
特に、イライジャ・ウッドのピアニストぶりが見事である。
ただ、音楽や芸術を追求した映画ではなく、
あくまで「謎」を追いかけるサスペンス映画。
主人公がいかに危機をかいくぐり、崖っぷちから這い上がっていくか、
謎の脅迫者の要求にどうこたえていくのか、
脅迫者の魔の手から、妻は、友人は、守られるのか。
コンサートという限られた時間と空間で行われる駆け引きで
スリル、スリルの連続を切り抜けるうち、
トムは自信を取り戻していく。
そして、本当の主人公は「グランドピアノ」。
その中に仕掛けられた知性と欲望の「キー」が、最後の最後に姿を現す。

↑このページのトップヘ