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カテゴリ: 群像劇

3組の夫婦と1人の男が織りなす熟年恋愛の寓話

愛して飲んで歌ってメイン
Ⓒ2013 F COMME FILM – FRANCE 2 CINÉMA – SOLIVAGUS


監督:アラン・レネ
原案戯曲:アラン・エイクボーン「Life 0f Riley」(お気楽な生活) 
配給:クレストインターナショナル 
封切 :2月14日(土)岩波ホールほか全国順次ロードショー
公式サイト :http://crest-inter.co.jp/aishite/

ストーリー●
とある春の日。
医師のコリンとその妻カトリーヌは、
素人芝居に出るべく夫婦で稽古に余念がない。
そこへ、友人ジョルジュが余命いくばくもないという連絡が入る。
「医師の守秘義務」をかたくなに守ろうとするマジメ人間コリンに対し、
おしゃべりおばさんのカトリーヌはすぐさまタマラに電話。
タマラの夫・ジョルジュはジャックの大親友だったのだ。
ジャックはひどく嘆き、
最近ジョルジュと離婚した元妻モニカに、
元夫と最期の時を過ごしてもらいたいと懇願しにいく。
すでに農夫シメオンとの新生活に入っていたモニカは、
初め渋っていたものの、シメオンを説き伏せジョルジュのもとへ。
一方、
カトリーヌはジョルジュを芝居に引っ張り出すことを提案する。
「ジョルジュを励まし、生きる希望を与えたい!」
芝居の中でラブシーンを演じるジョルジュとタマラは何やらいいカンジ。
今までタマラを顧みず浮気ばかりしてきたジャックにも、
妻の変化がどうにも気になり始めてくる。
そこにカトリーヌとジョルジュとの「過去」が明るみに!
春夏秋冬を穏やかに暮らしていた3組の夫婦の暮らしが、
思いがけずやってきたつむじ風に翻弄される。

みどころ●
2014年3月、 名監督アラン・レネ氏が91歳で死去した。
 「去年マリエンバードで」など、難解な作風でも知られるが、
その一方で軽妙なユーモアやエスプリが大好きだった。
そんな彼がこよなく愛したのが、イギリスの演劇作家アラン・エイクボーン。
この「愛して飲んで歌って」は、
そのエイクボーンの「お気楽な生活」を原作にしている。 
カトリーヌ役のサビーヌ・アゼマは、レネ監督の妻。

戯曲を原作としているせいか、
書割にブルッチのバンド・デシネ(漫画)を用い、
室内も家の庭も、敢えて「つくりもの」感を強調。

それによって熟年夫婦のやりとりは
「いつ、どこで、誰が」がずんずんそぎ落とされていく。
エッセンスがとぎすまされた結果、
大人の恋のドロドロやえぐみは消えて、
ある種大人のおとぎ話のように微笑ましい寓話になった。

それでもリアルさが保たれているのは、
良妻賢母を演じてきたタマラ(カロリーヌ・シオル)が
老いらくの恋に自分を解放していくさまが
大きなエネルギーを生み出しているからではないだろうか。

リッチな浮気男。
KYなマジメ一辺倒男。
恋多き女。
良妻賢母に命をかけてきた女。
自己チュー女。
自己チュー男。

3組の夫婦が最後におさまるところはどこなのか。
そのとき、3人の女友達の友情はどうなるのか。
ちょっと惜しいような、でもほっとするような、味わいのあるラストが
私は大好きだ。

アイスランド馬との共生で知る、生と死と恋の手ざわり

馬々と人間たち1
© Hrossabrestur2013

 

監督:ベネディクト・エルリングソン
製作:フリズリク・ソール・フリズリクソン
配給: マジックアワー
後援:アイスランド大使館
封切: 11月1日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

ストーリー●
荒涼とした原野に抱かれたアイスランドの寒村。
今日は馬と馬とのお見合いの日だ。
近所の家々をまわって自慢の処女馬を高い値で嫁がせようとしているのは
朴訥な独身男コルベイン。
一方、
子持ちの未亡人ソルヴェーイグは、
自分の持つ種馬と、コルベインの馬をめあわせたいだけでなく、
実はコルベイン自身にも密かに秋波を送っている。

しかし事態は思わぬ方向へ。
毛並のよい白馬娘の気配を感じたソルヴェーイグの種馬は
柵を破って娘馬に突進、
あろうことか路上で「婚前交渉」に及んでしまう。
馬だけが財産の小さな共同体で、掟破りの「恋」は決して許されない。
コルベインには、つらい決断が待っていた。

解説と見どころ●
昨年(2013年)の東京国際映画祭に出品され評判を呼んだ
「馬々と人間」が、いよいよ全国公開される。

馬の毛並のスーパークローズアップから始まり
一切の説明を排しながらこの映画のすべてを提示する
最初の10分の、なんと雄弁で濃密なことか!

その後この村に起こる人間と馬それぞれの、
生と死、そして、恋。
北極圏間近のアイスランドの厳しい天候の中で、
人々が紡いでいく生活の一端から、
「動物」としての人間が原初的に持っている
生のエネルギーの強さ、そして温かさが
ひしひしと伝わってくる佳作である。

中年男と中年女の、牧歌的な恋のさやあてはユーモラス。
一転、
観光乗馬のツアーからはぐれ、
吹雪の中助かろうとする男の一夜は壮絶。
厳しい自然の中で生きる人間たちのたくましさに圧倒される。

かつて「遠雷」という日本映画があった。
野間文芸新人賞を受賞した立松和平の小説を
根岸吉太郎監督、永島敏行・石田えり主演で映画化したものだ(1981年)。
農業に従事する青年を中心に描かれた人間模様は汗と土の匂いに満ちていた。

「馬々と人間」にも同じプリミティヴなエネルギーを感じる。
我々はその日を、そしてその次の日をただ生きていく。
それが「生き物」である人間の、本能なのだ。
 
幸せであろうとなかろうと、次の日はやってくる。
「なぜ生きるのか」とか「幸せでなければ生きる意味がない」などと
考えがちな現代人への
静かで、しかし強烈なメッセージだ。

馬々と人間たち1
© Hrossabrestur2013
馬々と人間たちメイン
© Hrossabrestur2013
馬々と人間たち3
© Hrossabrestur2013
馬々と人間たち2
 
© Hrossabrestur2013

無理難題でも「やってやろうじゃないの!」
弱小藩士が幕府に挑む青春群像劇


超高速メイン

©2014「超高速!参勤交代」製作委員会

 
監督: 本木克英
配給: 松竹
封切: 6月21日(土) 全国ロードショー

公式サイト: http://www.cho-sankin.jp/

ストーリー●
江戸時代、各藩に金も時間も使わせて、
幕府に対抗させる力を蓄えさせないしくみでもある壮大な制度・参勤交代。
湯長谷藩の一行も、1年の江戸への参勤を終え、ようやく故郷に帰ってきた。
ところがゆっくりするのもつかの間、幕府から再び「参勤せよ」との指令が!
それも金山の届出に不審あり、との呼び出し理由で、
「今日より5日以内に」というありえないタイトなスケジュール。

従わなければ藩のお取り潰しは確定だ。
気弱な藩主内藤政醇(佐々木蔵之介)は頭を抱えるが、
家老相馬兼嗣(西村雅彦)らとともに必死で江戸を目指す。
しかし道中には彼らをの行く手を阻む者たちが!
この、どう考えても不可能な「参勤命令」の裏には、
幕府老中信祝(陣内孝則)の黒い企みが潜んでいた。

解説と見どころ●
「窮地を脱するため、
知恵と勇気と絆で大きな権力に対抗する仲間たち」。
先だってヒットした「のぼうの城」をほうふつとさせる、爽快時代劇だ。
笑いあり活劇ありでテンポよく、
ちょっと見はドタバタ喜劇のように見えて、
冒頭の何気ないやりとりがクライマックスで重要になるなど、
伏線もきちんと貼られていて破綻がない。

また、絶対権力に蹂躙される庶民の気持ちも描かれており、
登場人物一人ひとりの生き方に共感できる。
「時代劇のカッコよさを残しながら、現代に通じる新しさを求めた」
という本木克英監督の志が、キャスト・スタッフに浸透した結果だろう。

弱小藩側の藩士の中では、
無謀な江戸行きに反対しながらも全力を尽くす秋山役の上地雄輔がいい。
徳川吉宗役には、佐々木蔵之介をスーパー歌舞伎に誘った歌舞伎俳優・市川猿之助。
さすがの貫禄である。

「タイムリミットに向かってゴールに向かう」という
汗臭い男たちのサバイバル・ロード・ムービーに
華を添えるのは紅一点の深田恭子(お咲)。
彼女との出会いが、藩主・政醇をいかに成長させるのか、
そこもまた楽しみな見どころだ。

サブ2
©2014「超高速!参勤交代」製作委員会
サブ1
©2014「超高速!参勤交代」製作委員会

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