仲野マリの気ままにシネマナビ online

投稿誌「Wife」に連載中の「仲野マリの気ままにシネマナビ」がWebの世界に飛び出しました!

カテゴリ: 社会問題

夫が女性になっていく・・・そのとき妻は?

リリーのすべてメイン
Ⓒ2015 Universal Studios. All Rights Reserved.
 

 

監督:トム・フーパー  

配給:東宝東和

 

ストーリー●
コペンハーゲンに住むヴェイナー夫妻は画家同士。
内気なアイナー(エディ・レッドメイン)は風景画家として新進気鋭、
社交的な妻ゲルダ(
アリシア・ヴィキャンデル)は人物画を得意としていた。
ある日絵のモデルが来られなくなって困ったゲルダは、

体つきが華奢な夫に、脚だけモデルになってと代役を頼む。
ストッキングに脚を通し、ドレスを胸にあてた瞬間、
アイナーの全身に衝撃が走った。内なる「リリー」が動き始めたのだ。
318日、 TOHOシネマズ他にて全国ロードショー、R15+)

 

みどころ●
今から80年以上前、まだ安全性の確立しない性別適合手術を
世界で初めて受けたリリー・エルベの実話に基づく物語だ。
同性愛への偏見も強くトランスジェンダーやLGBTQなどの言葉もない時代。
自らも世間体に縛られ性別違和の現実に打ち震えつつも、
やがて自分らしく生きたいと走り出すリリーを、
レッドメインがうつむき加減の面差しや眼の動きで繊細に表現している。
苦悩するのは本人だけだはない。
「夫」が男でなくなる妻の衝撃はいかばかりか。
しかしゲルダは「リリー」の存在を認め、姉妹のように寄り添い支える。
寄り添いながらも「わが夫アイナー」が消えていく寂しさを振り払えない辛さ。
人間として人間を愛するとは? ゲルダの愛の形に感服する。

lili_サブ1
 
Ⓒ2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

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Ⓒ2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

ザ・ビーチボーイズの真実~
心を病んだ天才ミュージシャンの20年後

メイン
Ⓒ2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

監督ビル・ポーラッド
配給:KADOKAWA
封切 :8月1日(土)より角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー


ストーリー●
1960年代、
「サーフィンUSA」などのヒット曲で一世を風靡したザ・ビーチ・ボーイズ。
その中心的存在ブライアン・ウィルソン(ポール・ダノ)は、
天才的な作曲能力を持っていたが人見知りで、
コンサートツアーよりスタジオでの曲作りが好き。
没頭して斬新すぎる楽曲を連発するうち、やがて神経を病むようになる。
20年後、
中年男になったブライアン(ジョン・キューザック)は
精神科医ユージン(ポール・ジアマッティ)の監視下で生活していた。
ブライアンと交際し始めたメリンダ(エリサベス・バンクス)は、
彼に家族との面会までも禁じるユージンの
強過ぎる支配に疑問を持つ。

みどころ●
有名ミュージシャンの成功物語、あるいは
栄光から転落していくさまをつづった映画は多い。
今回も、前半は若大将の波乗り気分でヒットソングの連続が気分を高揚させる。
しかし、ブライアンが音楽と真っ向勝負するあたりから、
話は逆に「音楽」という特殊性を離れ、
ナイーブな若者であれば誰にでも起こりうる心の闇に分け入ることとなる。
たまたま主人公が有名ミュージシャンなだけで、
これは医師の横暴と策略により自分らしく生きる権利をはく奪され、
食い物にされた精神患者の苦悩と再生をテーマにした物語なのだ。
 
ユージンに扮したポール・ジアマッティが
怪僧ラスプーチンのような眼力でブライアンを洗脳、
精神患者の後見制度が持つ問題を浮き彫りにしている。
過去と現在の描写切り替えは、
才能のおもむくまま生きた若き日と、
ユージンの一言一句におびえる中年以降とを分け、
ブライアンを二人の俳優で演じる方式が成功している。

ラスト、
ブライアン・ジョーンズ本人の現在の姿が映し出されるのが、
救いであり、最高のハッピーエンドだ。

サブ2
Ⓒ2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

サブ1
Ⓒ2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

僕の幸せは、僕だけが決められる!

『幸せのありか』メイン (2)
©Trmway Sp.z.o.o Instytucja Filmowa „Silesia Film”, TVP
S.A. Monternia.PL2013

監督・脚本:マチェイ・ピェブシツア

配給:アルシネテラン

封切:12月13日(土)より岩波ホールほか、全国順次公開


ストーリー●
1980年代のポーランド。幼いマテウシュは、重度の身体障害を持つ。
マテウシュの母は治療と回復の可能性を求めて病院を回るが、
意思疎通のできないマテウシュに対し、
医師は「知的障害」「植物状態」と判断、サジを投げる。
そんなマテウシュを、家族は明るく愛情深く育て、
マテウシュは好奇心旺盛、天真爛漫な少年時代を送る。
しかし父親の急死でマテウシュは施設へ。
そこである日、
瞼の動きで意思を伝える方法が試され、
青年マテウシュが「知的障害」ではないことがようやく証明される。
世間の注目を浴び、高等教育への扉が開いたマテウシュだったが、
その実現のためには、
ようやく見つけた「居場所」を諦める必要があった。

解説と見どころ●
主演のダヴィド・オグロドニクは健常者だが、
脳性麻痺を持つマテウシュになりきって見事。
当事者たちとも会い、長期間の準備期間をもって、
完璧なパントマイムとして動きを習熟したという。
まるでドキュメンタリーを見ているような自然な演技を見せてくれる。

障害者物語というと、日本人は「真面目な人の逆境克服」を想像しがちだが、
マテウシュは恋もすればイタズラもし、苛立ったり傷ついたりもする。
自分への差別に憤慨して悪態もつく反面、
逆に自分が知的障害者「なんか」ではない!という
差別の心を持っている。
そこから彼がどのように成長していくかも、
見届けてほしい部分である。

また、
この映画でもっとも魅力的なキャラクターは、
マテウシュの父親だろう。
息子が言葉を発しようが発しまいが、
体が動こうが動くまいが、
パパはいっこうに気にせず、
息子が喜びそうなことをし、
自分の好きな話を子どもに話す。
ポーランドに自由が訪れた日の、花火のシーンは美しくも哀しい。
「世間」の常識にとらわれない父親の存在が
いかにマテウシュの人間形成に必要だったか。
家族のあり方にこそ、この映画の醍醐味があるのではないだろうか。
ほかにも
母親の、息子の生命力を確信して医者の言葉を鵜呑みにしない強さ、
きょうだいの、マテウシュに対する愛、嫉妬、煩わしさなど、
自然体だからこそ共感できる感情に満ちている。

『幸せのありか』サブ2 (2)
©Trmway Sp.z.o.o Instytucja Filmowa „Silesia Film”, TVPS.A. Monternia.PL2013

「大丈夫」とあなたが思えるその日まで


救いたい4
©2014「救いたい」製作委員会

監督:神山征二郎 
配給:AMGエンタテインメント 
封切: 11月22日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

あらすじ⚫︎ 
川島隆子(鈴木京香)は仙台医療センターの麻酔科医長。
夫の貞一(三浦友和)も仙台市内に医院を開院するだが、 
2011年3月11日、東日本大震災によって、夫婦の生活は一変する。
貞一は仙台の医院を休診にし、被災地に単身赴任して診療所を立ち上げたのだ。 
診療所を手伝う看護婦の吉田美菜(中越典子)は、
震災で新婚の夫を亡くし、年老いた姑(藤村志保)と暮らす。 
一方、隆子の部下である若い麻酔科医・鷹峰純子(貫地谷しほり)も、
震災で父親を亡くしそのトラウマから抜け出せず、
麻酔医としても岐路に立っていた。
隆子は人命を救うために欠かせない麻酔医の仕事に誇りを持ち、
部下の純子にも何とか立ち直って麻酔医を続けてほしいと尽力するのだった。
平日は多忙な病院業務、週末は自分より体を酷使する夫を気遣い被災地へ。
隆子はそうした生活の中で、被災地の人々が明るく振る舞いながらも、
いまだ深い悲しみに耐えていることに気づく。

解説と見どころ⚫︎
医師夫婦が主人公でタイトルが「救いたい」だから、
医療がメインの物語かと思いきや、
震災で生活も体も心も打ちのめされた人々の痛みと
そこからの復活を丁寧に描いた
人間の喜びと苦しみにそっと寄り添う作品だ。

東日本大震災から3年。
救われた人も救った人も、
救いたい人も救われたい人も、
みんな苦しんでいる。

息子を亡くし山村に嫁と暮らす姑を演じる藤村志保の
静かな中に大きな決意を表す演技に注目だ。

もちろん「医療」の現場も描かれている。
「麻酔医の仕事は、手術中意識がなく
   自分の体の状態を訴えられない患者さんに代わって
   患者さんの体を預かる大切な役割」
「麻酔は薬を止めれば必ず目覚めます」
などなど、麻酔医の重要性が目からウロコなセリフが満載だ。
映画を見た後、麻酔医を見る目が変わった自分に驚く。

三浦友和も、名作「赤ひげ」の三船敏郎ばりに
「医は仁術なり」を体現するが自然体で好演。
医師の理想像を描くとどうしても
フィクションだから、と穿って考えがちだが、
川島貞一という男は
震災時そして今も、必死で被災地を支えている
多くの医師たち一人ひとりの現場の声を
代弁する存在なのだと感じた。

決しておとぎ話にならないリアリティが
じわじわ心に染み入る映画である。

 


誰もが口ずさめるCMソングが、
チリの恐怖政治を終わらせる原動力に
NOメイン

©2012  Participant Media No Holdings,LLC.

 

監督: パブロ・ラライン
脚本:ペドロ・ペイラノ
オリジナル戯曲:アントニオ・スカルメタ「国民投票」
配給・宣伝:マジックアワー
封切: 8月30日(土)より[東京]ヒューマントラストシネマ有楽町、
[大阪]テアトル梅田、[神戸]シネ・リーブル神戸  ほか全国順次ロードショー
公式サイト: www.magichour.co.jp/no/ 

2012/チリ・アメリカ・メキシコ/スペイン語/
カラー/スタンダード/5.1ch/118分
日本語字幕:太田直子
スペイン語監修:矢島千恵子
後援:チリ大使館 

出演:ガエル・ガルシア・ベルナル
   アルフレド・カストロ、アントニア・セヘルス、ルイス・ニェッコ
 
ストーリー●
レネ(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、
テレビCMを手掛ける広告マン。
コーラのCMなど、大衆受けする映像を得意とするレネに、
思わぬ依頼が。
軍事政権下のチリで行われる国民投票の、
野党連合側キャンペーン番組だ。
父の旧知からの申し入れに、
彼は上司の目を気にしながらも協力を約束する。
視聴者の嗜好や心理把握に長けたレネが繰り出した
明るく軽妙な「政治CM」は、
これまでの堅苦しい野党の殻を破り、
多くの賛同者を得始める。
が、それと同時に、
敢えて政治と距離をおいてきたレネとその家族の周りには
恐ろしい影がつきまとい始めるのだった。

解説と見どころ●
1988年チリ、ピノチェト政権の下で
実際に起こった話に基づく映画である。
軍政に反対する若者たち次々と姿を消し、
密かに処刑されていった恐怖政治が世界的にも問題となり、
国民投票を余儀無くされたピノチェト。
圧倒的に不利な条件でのキャンペーンしか許されない野党連合に
当初勝ち目はないと誰もが思ったのに、
なぜ劇的な、それも無血の政権交代は成功したのか。

大衆は、どんなに現実に絶望していても、
単に正論を振りかざし、反対のための反対を繰り返すだけでは動かない。
彼らの心の中の勇気に火をつけるのは、夢と希望なのだ。
そのことに改めて気づかされるとともに、
これは地球の裏側の、昔の話に終わらないと強く感じる。
レネと野党のお偉方とのやりとりを観ていると、
そのまま日本のあの人、この人の主張そっくりに思えてしまう。

今、日本で、ぜひとも観るべき映画ではないだろうか。
特に市民活動家は好いお手本として、
クリエーターは、自分の力の使い所を考える上で、
必見である。

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この作品は2012年の東京国際映画祭で、
私がもっとも感銘を受けた映画です。
配給がついて日本に再上陸、本当にうれしい!

テンポ良く、月9業界ドラマのようなノリで始まりながら、
実はとっても深いお話。

民主主義を守るために、B層を動かせ!そのためには、

…という「手口」と「勇気」と「連帯」を見せてくれます。







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