仲野マリの気ままにシネマナビ online

投稿誌「Wife」に連載中の「仲野マリの気ままにシネマナビ」がWebの世界に飛び出しました!

カテゴリ: ロードショウ

人種も時空も超えた「忠臣蔵」
グローバルスタンダードな騎士魂が炸裂

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©2015 Luka Productions.

監督:紀里谷和明
配給:KIRIYA PICTURES/ギャガ
封切 :11月14日、 TOHOシネマズ スカラ座他にて全国ロードショー
公式サイト :http://lastknights.jp/


ストーリー●
そこは腐敗政治がはびこる帝国が支配する世界。
悪徳大臣は権力をかさに強要する。
金満政治を嫌うバルトーク卿(モーガン・フリーマン)は、
賄賂を断って窮地に立たされ、
大臣に刀を向けたため斬首、領地も没収されてしまうのだった。
一年後、
城を追われた騎士達は身分を隠して暮らしながら、復讐の機会をうかがっていた。
隊長のライデン(クライヴ・オーウェン)は酒浸りの日々を過ごすとみせかけ、
油断を誘う。
いよいよ、宿敵を倒す日がやってきた。
彼らは難攻不落の城に潜入できるのか。

みどころ●
「仮名手本忠臣蔵」をベースにした本作品。
といっても、そこはハリウッド映画。
架空の世界、架空の国での物語に換骨奪胎してある。
当初登場キャラクターが全員日本人だったものを、
「日本の、特別な話として片づけられたくなかった」という紀里谷監督が
多国籍の俳優が違和感なく物語に溶け込めるように再構築した。

だから、さまざまな国や民族の名優たちが出演している。
浅野内匠頭はモーガン・フリーマン、大石内蔵助がクライヴ・オーウェン。
韓国の名優アン・ソンギは加古川本蔵という渋い役どころ。
日本からも原剛志が、清水一学を思わせる帝国側(吉良側)剣の達人を演じる。
寡黙な中に存在感が光る重要な役回りだ。

アクションありサスペンスありの中に、
正しい生き方(義)のため立ち上がる人々の物語が浮き彫りになる。
クライマックスの「討入り」は圧巻。
ダムのように立ちはだかる城壁をはじめ、
待ち受ける数々のダンジョンを前に
「彼ら」はひるむことなく立ち向かっていく。
 待ち受ける帝国側(吉良側)の剣の達人たちとの戦い、
特に伊原とオーウェンとの一騎打ちは
「奥庭泉水の場面」(竹森喜多八と小林平八郎の殺陣)をほうふつとさせる。

このように、
かなり大胆に筋を単純化しているようでいて、
原典を細部まで理解した上で練られた脚本は見事。
(この脚本、最初に書いたのはカナダ人である)

「忠臣蔵」をよく知る人は、
登場人物や有名なエピソードがどのように形を変えて姿を現すか、
あるいはどの設定が変えられているかを発見するのも楽しみの一つ。
逆に知らない人には、
「忠臣蔵」を理解する格好の機会になるのではないだろうか。

「ラスト・ナイツ」は
第28回東京国際映画祭に出品され、
公開にさきがけ10月にも上映されている。 

どんなハカリがあれば、人生の重みを比べることができるのだろう?

【大】1001グラムメイン (2)

 BulBul Film, Pandora Film Produktion, Slot Machine © 2014


監督/脚本/製作:ベント・ハーメル
配給:有限会社 ロングライド
封切 :10月31日(土)より渋谷 Bunkamura ル・シネマほか全国ロードショー!
公式サイト :http://1001grams-movie.com

●あらすじ
ノルウェー国立計測研究所に勤めるマリエ(アーネ・ダール・トルプ)は、
黙々と仕事をこなす女性。エコ志向も強く、通勤は電気自動車だ。
同業のベテランである父が病気で倒れたため、父の代理でパリの国際会議に赴くことになる。
それはマリエにとってキャリアアップにつながる大きな仕事だが、
ノルウェーに1つしかないキログラム原器を携えての出張は緊張の連続。
埃一つ付いても重さが違ってしまうため、何重にも容器に入れられた原器の扱いは、
外気に触れぬよう空港の税関でも荷物検査を免れるほどの厳重さが求められるのだった。
ところが出張から帰る車の中で、マリエは車両事故を起こし、原器も車から放り出されてしまう。

●みどころ
笑わない主人公である。
なぜマリエが無表情なのかは、寝室のダブルベッドに片方しか蒲団が敷かれていないことで察せられる。
研究所と自宅との往復と、たまに父親のいる農場へ行くくらいの起伏のない日々の繰り返すごと、
彼女の満たされない思いや息苦しさが積み重なる。
対照的に、出張先のパリは色鮮やかだ。パリはマリエに、人生の転機と勇気を与える。
感情をあらわにしない彼女が、たった2回だけ微笑む、その微笑が美しい。
また、
「ハカリ」や「重さ」にまつわるエピソードが、無機質でない奥行をもっているところにも注目。
計測に生涯をかけた父アーンスト(スタイン・ヴィンゲ)が、自らの「魂の重さ」を測るよう、
娘に託すシーンは感慨深い。「1001グラム」のナゾはそこに関係がある。
ラストシーンの会話は、「フィート」や「インチ」など、昔ながらの測定単位の語源を知っていると、さらに楽しめる。
“キログラム原器”という冷たい金属の塊を題材にしながら、
人のぬくもりや家族の絆、そして自然を強く感じさせる不思議な作品である。

「俺もあとから行くからな」と言った上官が行ったためしはない!
~埋もれていた特攻の真実を集めて~


筑波メイン


監督:若月 治
配給・宣伝:シグロ
封切 :8月1日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開


ストーリー●
茨城県笠間市には、
かつて戦闘機の教育部隊であった筑波海軍航空隊の司令部庁舎が、
「筑波海軍航空隊記念館」として保存されている。
ここで訓練を積んだ受けた84名の若者が、
沖縄戦のための特攻隊に編入され、60名が亡くなっている。
地元の有志達は記念館設立を機に「プロジェクト茨城」を立ち上げ、
自分たちの町にとってあの戦争はなんだったのか、
戦跡の保存や資料の収集に取り組み始めた。
特攻隊員で生き残った人々のうち、生存者は数えるほどしかいない。
一人ひとりを丁寧に取材し、
彼らの青春の日々と悔恨をあぶり出す。

みどころ●
茨城県笠間市の人々が、自分たちの町に埋もれていた戦争の事実を
丁寧に掘り起こしていくドキュメンタリー。
生き残った特攻隊員たちの証言も傾聴に値するが、
民家から出てくる戦時中の写真や資料にも目を見張る。
淡々とした中に、戦争の記憶を残そうという気概が見える。
そして、戦争を「かつてあったこと」ではなく
「そこに自分がいたらどうするか」をつきつめながら
証言者たちと対峙するメンバーの真剣な態度に胸を打たれた。


私は昭和30年代の生まれなので、
戦争中の話は本、マンガ、映画、テレビ、学校、親の話と
いろいろな形で聞いてきた世代だ。
だから率直に言うと、
それほど目新しい情報があるという映画には思えなかった。
しかし、
若い人たちはこの映画を通して、初めて知ることも多いだろう。
伝える、発信する、ということは、本当に重要なことだと痛感する。

戦後70年。
話せばつらい、と口をつぐんでいた人々が
今口を開かねば、と重い腰をあげている。
証言者たちは率直に、事実を次の世代に渡そうとしているように見えた。

戦争は特攻だけではない。軍人だけが戦争をしていたわけでもない。
戦争にまきこまれていった市井の人々、
その人の数だけ戦争の記憶があり、
その一つ一つのかけらをつなぎ合わせるようにして初めて、
戦争の真実のかたちがみえてくるのではないだろうか。

ザ・ビーチボーイズの真実~
心を病んだ天才ミュージシャンの20年後

メイン
Ⓒ2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

監督ビル・ポーラッド
配給:KADOKAWA
封切 :8月1日(土)より角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー


ストーリー●
1960年代、
「サーフィンUSA」などのヒット曲で一世を風靡したザ・ビーチ・ボーイズ。
その中心的存在ブライアン・ウィルソン(ポール・ダノ)は、
天才的な作曲能力を持っていたが人見知りで、
コンサートツアーよりスタジオでの曲作りが好き。
没頭して斬新すぎる楽曲を連発するうち、やがて神経を病むようになる。
20年後、
中年男になったブライアン(ジョン・キューザック)は
精神科医ユージン(ポール・ジアマッティ)の監視下で生活していた。
ブライアンと交際し始めたメリンダ(エリサベス・バンクス)は、
彼に家族との面会までも禁じるユージンの
強過ぎる支配に疑問を持つ。

みどころ●
有名ミュージシャンの成功物語、あるいは
栄光から転落していくさまをつづった映画は多い。
今回も、前半は若大将の波乗り気分でヒットソングの連続が気分を高揚させる。
しかし、ブライアンが音楽と真っ向勝負するあたりから、
話は逆に「音楽」という特殊性を離れ、
ナイーブな若者であれば誰にでも起こりうる心の闇に分け入ることとなる。
たまたま主人公が有名ミュージシャンなだけで、
これは医師の横暴と策略により自分らしく生きる権利をはく奪され、
食い物にされた精神患者の苦悩と再生をテーマにした物語なのだ。
 
ユージンに扮したポール・ジアマッティが
怪僧ラスプーチンのような眼力でブライアンを洗脳、
精神患者の後見制度が持つ問題を浮き彫りにしている。
過去と現在の描写切り替えは、
才能のおもむくまま生きた若き日と、
ユージンの一言一句におびえる中年以降とを分け、
ブライアンを二人の俳優で演じる方式が成功している。

ラスト、
ブライアン・ジョーンズ本人の現在の姿が映し出されるのが、
救いであり、最高のハッピーエンドだ。

サブ2
Ⓒ2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

サブ1
Ⓒ2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

なぜ三姉妹は、腹違いの四女を受け入れたのか

海街メイン

(C)2015吉田秋生・小学館/「海街diary」製作委員会

監督・脚本:是枝裕和
原作:吉田秋生 
配給:東宝、ギャガ
封切 :6月13日(土)より全国ロードショー
公式サイト :http://umimachi.gaga.ne.jp/


ストーリー●
幸(綾瀬はるか)、佳乃(長澤まさみ)、千佳(夏帆)は、
香田家の三姉妹。
幸はしっかりものの看護師、
佳乃は信用金庫に勤務。恋愛体質で、片づけがヘタ。
千佳はオシャレに関心がなく、もっぱら釣りに興じている。
父は愛人をつくって15年前に出奔した。
三女の千佳に、父親の記憶はほとんどない。
母(大竹しのぶ)もまた家を出て、
三人は早くから長女・幸が親代りのようにして生きてきた。
両親がいない鎌倉の古い日本家屋に
三人はずっと住み続けている。
三姉妹の共同生活を見守ってきたのは、大叔母にあたる史代(樹木希林)だ。
そこへ父の訃報が。
出奔時とは違う女性と暮らしていた父の最期をみとったのは、
中学生になるすず(広瀬すず)だった。
産みの母も父も死んでしまったすずが、
血のつながらない義母のもとで暮らすことを気遣い、
幸はすずに「鎌倉に来ないか」と誘う。
史代は反対だ。
自分たち家族を父に捨てさせる原因となった女性の娘を、
なぜ?
しかし幸の決意は固い。
すずは幸の真意を測りかねながらも、新しい世界に飛び出そうとする。
そして四姉妹の生活が始まった。

みどころ●
現代の話だが、描写される鎌倉の古家での穏やかな生活は、
一昔前の昭和の営みに包まれている。
縁側に集い、
庭の梅の木の実をとって梅酒をつけるところ、
ガタピシ音をさせる建て付けの悪い戸を行き来しながら、
お風呂の順番をとりあうところ。
丸いちゃぶ台でご飯を食べるところ。
一見、
のどかな古き良き日本家庭を描いているようでいて、
この家庭は「昭和の標準」から大きく逸脱している。

カンヌ映画祭での上映後、
「立膝をついてご飯をかっこむなど、日本の娘のすることではない」と
その描写を批判する報道があったが、
映画の意図をまったく理解しない意見である。
彼らは親に育てられていない子どもなのだ。
幸は今でも妹たちに「お行儀」をおしえる。
彼女たちが10歳にもならないときから、幸は「お行儀」をおしえてきた。
子どもが、子どもに、「お行儀」をおしえてきたのだ。

おとなの身勝手で、「子ども時代」を奪われた、幸。
でも、「親」はいなくても「家」はあった。

「鎌倉の家」は繭玉となって、
幸を、佳乃を、千佳を、守ってくれてきたのである。

この四姉妹の物語を、市川崑監督の映画「細雪」と並べて評する向きがあるが、
私はむしろ小津安二郎監督の「東京物語」を思い出した。

古き良き「家庭」の幻想を背景に二重写しとなる、
家庭崩壊。
「新しき者」の闖入によって浮き彫りとなる
本当の家族愛のかたち。
四人がそれぞれひっそりと持ち続ける親との思い出の断片が、
ゆっくりと像を結び始める。

静かな映画である。
地味な映画である。
しかし、
四人の若手女優の好演と、
樹木希林の名演、大竹しのぶの怪演によって
七色の織物に仕上がっている。

カンヌでグランプリを取れなかったのはむべなるかな。
ヨーロッパが求める映画とは文法が異なる。
その意味でも、小津映画に似ているかもしれない。

新人・広瀬すずが場面場面でまったく異なる顔を見せるのが印象的。
綾瀬はるかが強さと脆さを抱えながら、仕事も恋愛も家族問題も、
「自分のものさし」を持ってまっすぐに向き合う長女を好演。
長澤まさみはセピア色の「昭和な生き方」に新しい風と色をもたらす。
夏帆は幸が失った子ども時代をそのまま内包する末娘として、
異色の輝きを放っている。

海街サブ1
(C)2015吉田秋生・小学館/「海街diary」製作委員会

菊池史代(三姉妹の大叔母)
(C)2015吉田秋生・小学館/「海街diary」製作委員会

佐々木都(三姉妹の実母)
(C)2015吉田秋生・小学館/「海街diary」製作委員会

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